源氏物語・若菜上(わかな・じょう)巻の和歌24首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
内訳:6(源氏)、3(紫上)、2×3(朱雀院、朧月夜、柏木)、1×9(斎宮、玉鬘、女三宮、明石尼君、明石姫君、明石、明石入道、夕霧、小侍従)※最初と最後
即答 | 5首 | 40字未満 |
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応答 | 12首 | 40~100字未満 |
対応 | 6首 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 1首 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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459 贈 |
さしながら 昔を今に 伝ふれば 玉の小櫛ぞ 神さびにける |
〔斎宮〕挿したまま 昔から今に 至りましたので 玉の小櫛は 古くなってしまいました |
460 答 |
さしつぎに 見るものにもが 万世を 黄楊の小櫛の 神さぶるまで |
〔朱雀院〕あなたに引き続いて 姫宮の幸福を見たいものです 千秋万歳を告げる 黄楊の小櫛が 古くなるまで |
461 贈 |
若葉さす 野辺の小松を 引き連れて もとの岩根を 祈る今日かな |
〔玉鬘〕若葉が芽ぐむ 野辺の小松を 引き連れて育てて下さった 元の岩根を 祝う今日の子の日ですこと |
462 答 |
小松原 末の齢に 引かれてや 野辺の若菜も 年を摘むべき |
〔源氏〕小松原の 将来のある齢に あやかって 野辺の若菜も 長生きするでしょう |
463 独 |
目に近く 移れば変はる 世の中を 行く末遠く 頼みけるかな |
〔紫上〕眼のあたりに 変われば変わる 二人の仲でしたのに 行く末長くと あてにしていましたとは |
464 独:答 |
命こそ 絶ゆとも絶えめ 定めなき 世の常ならぬ 仲の契りを |
〔源氏〕命は 尽きることがあっても しかたのないことだが 無常なこの世とは違う 変わらない二人の仲なのだ |
465 贈 |
中道を 隔つるほどは なけれども 心乱るる 今朝のあは雪 |
〔源氏〕わたしたちの仲を 邪魔するほどでは ありませんが 降り乱れる 今朝の淡雪にわたしの心も乱れています |
466 答 |
はかなくて うはの空にぞ 消えぬべき 風にただよふ 春のあは雪 |
〔女三宮〕頼りなくて 中空に 消えてしまいそうです 風に漂う 春の淡雪のように |
467 贈 |
背きにし この世に残る 心こそ 入る山路の ほだしなりけれ |
〔朱雀院〕捨て去った この世に残る 子を思う心が 山に入るわたしの 妨げなのです |
468 答 |
背く世の うしろめたくは さりがたき ほだしをしひて かけな離れそ |
〔紫上〕お捨て去りになったこの世が 御心配ならば 離れがたいお方を 無理に 離れたりなさいますな |
469 贈 |
年月を なかに隔てて 逢坂の さも塞きがたく 落つる涙か |
〔源氏〕長の年月を 隔ててやっと お逢いできたのにこのような関があっては 堰き止めがたく 涙が落ちます |
470 答 |
涙のみ 塞きとめがたき 清水にて ゆき逢ふ道は はやく絶えにき |
〔朧月夜〕涙だけは 関の清水のように 堰き止めがたくあふれても お逢いする道は とっくに絶え果てました |
471 贈 |
沈みしも 忘れぬものを こりずまに 身も投げつべき 宿の藤波 |
〔源氏〕須磨に沈んで暮らしていたことを 忘れないが また懲りもせずに この家の藤の花に、 淵に身を投げてしまいたい |
472 答 |
身を投げむ 淵もまことの 淵ならで かけじやさらに こりずまの波 |
〔朧月夜〕身を投げようと おっしゃる淵も 本当の淵ではないのですから 性懲りもなく そんな偽りの波に誘われたりしません |
473 独 |
身に近く 秋や来ぬらむ 見るままに 青葉の山も 移ろひにけり |
〔紫上〕身近に 秋が来たのかしら、 見ているうちに 青葉の山のあなたも 心の色が変わってきたことです |
474 独:答 |
水鳥の 青羽は色も 変はらぬを 萩の下こそ けしきことなれ |
〔源氏〕水鳥の 青い羽の わたしの心の色は変わらないのに 萩の下葉の あなたの様子は変わっています |
475 唱 |
老の波 かひある浦に 立ち出でて しほたるる海人を 誰れかとがめむ |
〔明石尼君〕長生きした 甲斐があると嬉し涙に泣いているからと言って 誰が出家した 老人のわたしを 咎めたりしましょうか |
476 唱 |
しほたるる 海人を波路の しるべにて 尋ねも見ばや 浜の苫屋を |
〔明石姫君〕泣いていらっしゃる 尼君に道 案内しいただいて 訪ねてみたいものです、 生まれ故郷の浜辺を |
477 唱 |
世を捨てて 明石の浦に 住む人も 心の闇は はるけしもせじ |
〔明石〕出家して 明石の浦に 住んでいる父入道も 子を思う心の闇は 晴れることもないでしょう |
478 贈:独 |
光出でむ 暁近く なりにけり 今ぞ見し世の 夢語りする |
〔明石入道→明石〕日の出近い 暁と なったことよ 今初めて昔見た 夢の話をするのです |
479 贈 |
いかなれば 花に木づたふ 鴬の 桜をわきて ねぐらとはせぬ |
〔柏木〕どうして、 花から花へと飛び移る 鴬は 桜を別扱いして ねぐらとしないのでしょう |
480 答 |
深山木に ねぐら定むる はこ鳥も いかでか花の 色に飽くべき |
〔夕霧〕深山の木に ねぐらを決めている はこ鳥も どうして美しい花の 色を嫌がりましょうか |
481 贈 |
よそに見て 折らぬ嘆きは しげれども なごり恋しき 花の夕かげ |
〔柏木〕よそながら見るばかりで 手折ることのできない悲しみは 深いけれども あの夕方見た花の美しさは いつまでも恋しく思われます |
482 代答 |
いまさらに 色にな出でそ 山桜 およばぬ枝に 心かけきと |
〔小侍従:女三宮乳母子〕今さら お顔の色にお出しなさいますな 手の届きそうもない桜の枝に 思いを掛けたなどと |