源氏物語・浮舟巻の和歌22首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
浮舟個人の和歌一覧はリンク先参照。
内訳:13(浮舟:八宮(源氏の異母弟)三女)、6(匂宮=今上帝三宮)、3(薫=柏木の子)※最初と最後
即答 | 10首 | 40字未満 |
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応答 | 1首 | 40~100字未満 |
対応 | 8首 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 3首 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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734 贈:独 |
まだ古りぬ 物にはあれど 君がため 深き心に 待つと知らなむ |
〔浮舟→中の君(浮舟姉)〕まだ古木には なっておりませんが、 若君様のご成長を 心から深く ご期待申し上げております |
735 贈 |
長き世を 頼めてもなほ 悲しきは ただ明日知らぬ 命なりけり |
〔匂宮〕末長い仲を 約束してもやはり 悲しいのは ただ明日を知らない 命であるよ |
736 答 |
心をば 嘆かざらまし 命のみ 定めなき世と 思はましかば |
〔浮舟〕心変わりなど 嘆いたりしないでしょう 命だけが 定めないこの世と 思うのでしたら |
737 贈 |
世に知らず 惑ふべきかな 先に立つ 涙も道を かきくらしつつ |
〔匂宮〕いったいどうしてよいか 分からない 先に立つ 涙が道を 真暗にするので |
738 答 |
涙をも ほどなき袖に せきかねて いかに別れを とどむべき身ぞ |
〔浮舟〕涙も 狭い袖では 抑えかねますので どのように別れを 止めることができましょうか |
739 贈 |
宇治橋の 長き契りは 朽ちせじを 危ぶむ方に 心騒ぐな |
〔薫〕宇治橋のように 末長い約束は 朽ちないから 不安に思って 心配なさるな |
740 答 |
絶え間のみ 世には危ふき 宇治橋を 朽ちせぬものと なほ頼めとや |
〔浮舟〕絶え間ばかりが 気がかりでございます 宇治橋なのに 朽ちないものと 依然頼りにしなさいとおっしゃるのですか |
741 贈 |
年経とも 変はらむものか 橘の 小島の崎に 契る心は |
〔匂宮〕何年たとうとも 変わりません 橘の 小島の崎で 約束するわたしの気持ちは |
742 答 |
橘の 小島の色は 変はらじを この浮舟ぞ 行方知られぬ |
〔浮舟〕橘の 小島の色は 変わらないでも この浮舟のようなわたしの身は どこへ行くのやら |
743 贈 |
峰の雪 みぎはの氷 踏み分けて 君にぞ惑ふ 道は惑はず |
〔匂宮〕峰の雪や 水際の氷を 踏み分けて あなたに心は迷いましたが、 道中では迷いません |
744 答 |
降り乱れ みぎはに凍る 雪よりも 中空にてぞ 我は消ぬべき |
〔浮舟〕降り乱れて 水際で凍っている 雪よりもはかなく わたしは中途で 消えてしまいそうです |
745 贈 |
眺めやる そなたの雲も 見えぬまで 空さへ暮るる ころのわびしさ |
〔匂宮→浮舟〕眺めやっている そちらの方の雲も 見えないくらいに 空までが真っ暗になっている 今日このごろの侘しさです |
746 贈 |
水まさる 遠方の里人 いかならむ 晴れぬ長雨に かき暮らすころ |
〔薫→浮舟749〕川の水が増す 宇治の里人は どのようにお過ごしでしょうか 晴れ間も見せず長雨が降り続き、 物思いに耽っていらっしゃる今日このごろ |
747 独 |
里の名を わが身に知れば 山城の 宇治のわたりぞ いとど住み憂き |
〔浮舟〕里の名を わが身によそえると 山城の 宇治の辺りは ますます住みにくいことよ |
748 答 |
かき暮らし 晴れせぬ峰の 雨雲に 浮きて世をふる 身をもなさばや |
〔浮舟→匂宮〕真っ暗になって 晴れない峰の 雨雲のように 空にただよう 煙となってしまいたい |
749 答 |
つれづれと 身を知る雨の 小止まねば 袖さへいとど みかさまさりて |
〔浮舟→薫〕寂しく わが身を知らされる雨が 小止みもなく降り続くので 袖までが涙でますます 濡れてしまいます |
750 贈:独 |
波越ゆる ころとも知らず 末の松 待つらむとのみ 思ひけるかな |
〔薫→浮舟〕心変わりする ころとは知らずに いつまでも 待ち続けていらっしゃるものと 思っていました |
751 贈 |
いづくにか 身をば捨てむと 白雲の かからぬ山も 泣く泣くぞ行く |
〔匂宮〕どこに 身を捨てようかと捨て場も知らない、 白雲が かからない山とてない山道を 泣く泣く帰って行くことよ |
752 独 |
嘆きわび 身をば捨つとも 亡き影に 憂き名流さむ ことをこそ思へ |
〔浮舟〕嘆き嘆いて 身を捨てても 亡くなった後に 嫌な噂を流す のが気にかかる |
753 答 |
からをだに 憂き世の中に とどめずは いづこをはかと 君も恨みむ |
〔浮舟〕亡骸をさえ 嫌なこの世に 残さなかったら どこを目当てにと、 あなた様もお恨みになりましょう |
754 贈:独 |
後にまた あひ見むことを 思はなむ この世の夢に 心惑はで |
〔浮舟→母:中将の君〕来世で再び お会いすることを 思いましょう この世の夢に 迷わないで |
755 贈:独 |
鐘の音の 絶ゆる響きに 音を添へて わが世尽きぬと 君に伝へよ |
〔浮舟→母:中将の君〕鐘の音が 絶えて行く響きに、 泣き声を添えて わたしの命も終わったと 母上に伝えてください |