源氏物語・梅枝(うめがえ)巻の和歌11首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
内訳:3(源氏)、2×2(蛍兵部卿宮、夕霧)、1×4(朝顔、柏木、弁少将=柏木弟、雲居雁=夕霧妻)※最初と最後
即答 | 9首 | 40字未満 |
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応答 | 0 | 40~100字未満 |
対応 | 2首 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 0 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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428 贈 |
花の香は 散りにし枝に とまらねど うつらむ袖に 浅くしまめや |
〔朝顔:前斎院〕花の香りは 散ってしまった枝には 残っていませんが、 香を焚きしめた袖には 深く残るでしょう |
429 答 |
花の枝に いとど心を しむるかな 人のとがめむ 香をばつつめど |
〔源氏〕花の枝に ますます心を 惹かれることよ 人が咎めるだろうと 隠しているが |
430 唱 |
鴬の 声にやいとど あくがれむ 心しめつる 花のあたりに |
〔蛍兵部卿宮:源氏弟〕鴬の 声にますます 魂が抜け出しそうです 心を惹かれた 花の所では |
431 唱 |
色も香も うつるばかりに この春は 花咲く宿を かれずもあらなむ |
〔源氏〕色艶も香りも 移り染まるほどに、 今年の春は 花の咲くわたしの家を 絶えず訪れて下さい |
432 唱 |
鴬の ねぐらの枝も なびくまで なほ吹きとほせ 夜半の笛竹 |
〔柏木〕鴬の ねぐらの枝も たわむほど 夜通し笛の音を 吹き澄まして下さい |
433 唱 |
心ありて 風の避くめる 花の木に とりあへぬまで 吹きや寄るべき |
〔夕霧〕気づかって 風が避けて吹くらしい 梅の花の木に むやみに近づいて 笛を吹いてよいものでしょうか |
434 唱 |
霞だに 月と花とを 隔てずは ねぐらの鳥も ほころびなまし |
〔弁少将:柏木弟〕霞でさえ 月と花とを 隔てなければ ねぐらに帰る鳥も 鳴き出すことでしょう |
435 贈 |
花の香を えならぬ袖に うつしもて ことあやまりと 妹やとがめむ |
〔蛍兵部卿宮〕この花の香りを 素晴らしい袖に 移して帰ったら 女と過ちを犯したのではないかと 妻が咎めるでしょう |
436 答 |
めづらしと 故里人も 待ちぞ見む 花の錦を 着て帰る君 |
〔源氏〕珍しいと 家の人も 待ち受けて見ましょう この花の錦を 着て帰るあなたを |
437 贈 |
つれなさは 憂き世の常に なりゆくを 忘れぬ人や 人にことなる |
〔夕霧〕あなたの冷たいお心は、 つらいこの世の習性と なって行きますが それでも忘れないわたしは 世間の人と違っているのでしょうか |
438 答 |
限りとて 忘れがたきを 忘るるも こや世になびく 心なるらむ |
〔雲居雁〕もうこれまでだと、 忘れないとおっしゃる わたしのことを忘れるのは あなたのお心も この世の習性の人心なのでしょう |