柏木(頭中将の子)の和歌全15首(贈8、答1、独詠4、唱和2)。相手内訳(女三宮6、玉鬘2、夕霧1.2、源氏・蛍宮・頭中将0.1。唱和を0.1とした)
柏木と女三宮が最多なのは順当。夕霧とは友人関係と思いきや、歌の上では玉鬘以下の関係性。
原文 (定家本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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胡蝶 1/14首 |
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366 贈:独 |
思ふとも 君は知らじな わきかへり 岩漏る水に 色し見えねば |
〔玉鬘←〕こんなに恋い焦がれていてもあなたはご存知ないでしょうね 湧きかえって 岩間から溢れる水には色がありませんから |
藤袴 1/8首 |
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401 贈 |
妹背山 深き道をば 尋ねずて 緒絶の橋に 踏み迷ひけるよ |
〔玉鬘←〕実の姉弟という関係を知らずに 遂げられない恋の道に踏み迷って文を贈ったことですよ |
梅枝(うめがえ) 1/11首 |
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432 唱 |
鴬の ねぐらの枝も なびくまで なほ吹きとほせ 夜半の笛竹 |
〔源氏+柏木+夕霧+蛍宮〕鴬のねぐらの枝もたわむほど 夜通し笛の音を吹き澄まして下さい |
藤裏葉(ふじのうらば) 1/20首 |
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443 唱 |
たをやめの 袖にまがへる 藤の花 見る人からや 色もまさらむ |
〔頭中将+夕霧+柏木〕うら若い女性の袖に見違える藤の花は 見る人の立派なためかいっそう美しさを増すことでしょう |
若菜上 2/24首 |
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479 贈 |
いかなれば 花に木づたふ 鴬の 桜をわきて ねぐらとはせぬ |
〔夕霧←〕どうして、花から花へと飛び移る鴬は 桜を別扱いしてねぐらとしないのでしょう |
481 贈 |
よそに見て 折らぬ嘆きは しげれども なごり恋しき 花の夕かげ |
〔女三宮←〕よそながら見るばかりで手折ることのできない悲しみは深いけれども あの夕方見た花の美しさはいつまでも恋しく思われます |
若菜下 3/18首 |
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483 独 |
恋ひわぶる 人のかたみと 手ならせば なれよ何とて 鳴く音なるらむ |
恋いわびている人のよすがと思ってかわいがっていると どういうつもりでそんな鳴き声を立てるのか |
490 贈 |
起きてゆく 空も知られぬ 明けぐれに いづくの露の かかる袖なり |
〔女三宮←〕起きて帰って行く先も分からない明けぐれに どこから露がかかって袖が濡れるのでしょう |
492 独 |
悔しくぞ 摘み犯しける 葵草 神の許せる かざしならぬに |
悔しい事に罪を犯してしまったことよ 神が許した仲ではないのに |
493 独 |
もろかづら 落葉を何に 拾ひけむ 名は睦ましき かざしなれども |
劣った落葉のような方をどうして娶ったのだろう 同じ院のご姉妹ではあるが |
柏木 2/11首 |
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501 贈 |
今はとて 燃えむ煙も むすぼほれ 絶えぬ思ひの なほや残らむ |
〔女三宮←〕もうこれが最期と燃えるわたしの荼毘の煙もくすぶって 空に上らずあなたへの諦め切れない思いがなおもこの世に残ることでしょう |
503 答 |
行方なき 空の煙と なりぬとも 思ふあたりを 立ちは離れじ |
〔女三宮〕行く方もない空の煙となったとしても 思うお方のあたりは離れまいと思う |
横笛 1/8首 |
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519 独 |
笛竹に 吹き寄る風の ことならば 末の世長き ねに伝へなむ |
この笛の音に吹き寄る風は同じことなら わたしの子孫に伝えて欲しいものだ |
橋姫 2/13首 |
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630 贈:独 |
目の前に この世を背く 君よりも よそに別るる 魂ぞ悲しき |
〔女三宮←〕目の前にこの世をお背きになるあなたよりも お目にかかれずに死んで行くわたしの魂のほうが悲しいのです |
631 贈:独 |
命あらば それとも見まし 人知れぬ 岩根にとめし 松の生ひ末 |
〔女三宮←〕生きていられたら、それをわが子だと見ましょうが 誰も知らない岩根に残した松の成長ぶりを |