源氏物語・末摘花(すえつむはな)巻の和歌14首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
内訳:9(源氏)、2(末摘花=常陸宮の姫君:赤鼻の醜女)、1×3(頭中将、侍従、命婦)※最初と最後
即答 | 0 | 40字未満 |
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応答 | 7首 | 40~100字未満 |
対応 | 4首 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 3首 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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70 贈 |
もろともに 大内山は 出でつれど 入る方見せぬ いさよひの月 |
〔頭中将〕ご一緒に 宮中を 退出しましたのに 行く先を晦ましてしまわれる 十六夜の月のようですね |
71 答 |
里わかぬ かげをば見れど ゆく月の いるさの山を 誰れか尋ぬる |
〔源氏〕 どの里も 遍く照らす 月は空に見えても その月が隠れる山まで 尋ねて来る人はいませんよ |
72 贈 |
いくそたび 君がしじまに まけぬらむ ものな言ひそと 言はぬ頼みに |
〔源氏〕 何度 あなたの沈黙に 負けたことでしょう ものを言うなと おっしゃらないことを頼みとして |
73 代答 |
鐘つきて とぢめむことは さすがにて 答へまうきぞ かつはあやなき |
〔侍従〕 鐘をついて 論議を終わりにするようにもう何もおっしゃるなとは さすがに言いかねます。 ただお答えしにくいのが、 何ともうまく説明できないのです |
74 答 |
言はぬをも 言ふにまさると 知りながら おしこめたるは 苦しかりけり |
〔源氏〕何もおっしゃらないのは 口に出して言う以上なのだとは 知っていますが、 やはりずっと黙っていらっしゃるのは 辛いものですよ |
75 贈 |
夕霧の 晴るるけしきも まだ見ぬに いぶせさそふる 宵の雨かな |
〔源氏〕 夕霧が 晴れる気配を まだ見ないうちに、 さらに気持ちを滅入らせる 宵の雨まで降ることよ。 |
76 答 |
晴れぬ夜の 月待つ里を 思ひやれ 同じ心に 眺めせずとも |
〔姫君:末摘花〕 雨雲の晴れない夜の 月を待っている人を 思いやってください。 わたしと同じ気持ちで 眺めているのでないにしても |
77 贈:独 |
朝日さす 軒の垂氷は 解けながら などかつららの 結ぼほるらむ |
〔源氏→末摘花〕 朝日がさしている 軒のつららは 解けましたのに どうしてあなたの心は氷のまま 解けないでいるのでしょう |
78 独 |
降りにける 頭の雪を 見る人も 劣らず濡らす 朝の袖かな |
〔源氏〕 老人の白髪頭に 積もった 雪を見ると その人以上に、 今朝は涙で袖を濡らすことだ |
79 贈 |
唐衣 君が心の つらければ 袂はかくぞ そぼちつつのみ |
〔姫君:末摘花〕 あなたの冷たい心が つらいので わたしの袂は涙でこんなに ただもう濡れております |
80 独:贈 |
なつかしき 色ともなしに 何にこの すゑつむ花を 袖に触れけむ |
〔源氏〕 格別親しみを感じる 花でもないのに どうしてこの 末摘花のような女に 手をふれることになったのだろう |
81 独:答 |
紅の ひと花衣 うすくとも ひたすら朽す 名をし立てずは |
〔大輔の命婦〕 紅色に 一度染めた衣は 色が薄くても どうぞ悪い評判を お立てなさることさえなければ…… |
82 答 |
逢はぬ夜を へだつるなかの 衣手に 重ねていとど 見もし見よとや |
〔源氏〕 逢わない夜が多いのに 間を隔てる 衣とは ますます重ねて 見なさいということですか |
83 独 |
紅の 花ぞあやなく うとまるる 梅の立ち枝は なつかしけれど |
〔源氏〕 紅の 花はわけもなく 嫌な感じがする 梅の立ち枝に咲いた花は 慕わしく思われるが |
78の「降りにける頭の雪を見る人」は「春の日のひかりにあたる我なれと かしらの雪となるそわひしき」(古今8)を受けたもの。
末摘花は、紅をつけた鼻を紅花に掛け、下手に触ると痛い目を見ると解く。その心は上から摘まむように取るのが上手、しかしあえて鼻に触れなければいい。いいか触れるなよ? 絶対触れるなよ? という伝統芸。象のことを想像してはいけませんの類。