源氏物語・御法(みのり)巻の和歌12首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
内訳:3×2(紫上、源氏)、1×6(明石、花散里、明石姫君=紫養女、夕霧、頭中将、斎宮)※最初と最後
即答 | 5首 | 40字未満 |
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応答 | 4首 | 40~100字未満 |
対応 | 2首 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 1首 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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552 贈 |
惜しからぬ この身ながらも かぎりとて 薪尽きなむ ことの悲しさ |
〔紫上〕惜しくもない この身ですが、 これを最後として 薪【命の火種】の尽きる ことを思うと悲しうございます |
553 答 |
薪こる 思ひは今日を 初めにて この世に願ふ 法ぞはるけき |
〔明石〕仏道【行者の道→逝く道】への 思いは今日を 初めの日として この世で願う 【皆で会える法会は長く続くことでしょう】 仏法のために千年も祈り続けられることでしょう |
554 贈 |
絶えぬべき 御法ながらぞ 頼まるる 世々にと結ぶ 中の契りを |
〔紫上〕これが最後と思われます 法会ですが、 頼もしく思われます 生々世々にかけてと結んだ あなたとの縁を |
555 答 |
結びおく 契りは絶えじ おほかたの 残りすくなき 御法なりとも |
〔花散里〕あなた様と御法会で結んだ 御縁は未来永劫に続くでしょう 普通の人には 残り少ない命とて、多くは催せない 法会でしょうとも |
556 唱 |
おくと見る ほどぞはかなき ともすれば 風に乱るる 萩のうは露 |
〔紫上〕起きていると見えますのも 暫くの間のこと ややもすれば 風に吹き乱れる 萩の上露のようなわたしの命です |
557 唱 |
ややもせば 消えをあらそふ 露の世に 後れ先だつ ほど経ずもがな |
〔源氏〕どうかすると 先を争って消えてゆく 露のようにはかない人の世に せめて後れたり先立ったりせずに 一緒に消えたいものです |
558 唱 |
秋風に しばしとまらぬ 露の世を 誰れか草葉の うへとのみ見む |
〔明石姫君〕秋風に 暫くの間も止まらず散ってしまう 露の命を 誰が草葉の 上の露だけと思うでしょうか |
559 独 |
いにしへの 秋の夕べの 恋しきに 今はと見えし 明けぐれの夢 |
〔夕霧〕昔お姿を拝した 秋の夕暮が 恋しいのにつけても 御臨終の薄暗がりの中でお顔を見たのが 夢のような気がする |
560 贈 |
いにしへの 秋さへ今の 心地して 濡れにし袖に 露ぞおきそふ |
〔頭中将:致仕の大臣〕昔の 秋までが今のような 気がして 涙に濡れた袖の上に また涙を落としています |
561 答 |
露けさは 昔今とも おもほえず おほかた秋の 夜こそつらけれ |
〔源氏〕涙に濡れていますことは 昔も今も どちらも同じです だいたい秋の 夜というのが堪らない思いがするのです |
562 贈 |
枯れ果つる 野辺を憂しとや 亡き人の 秋に心を とどめざりけむ |
〔斎宮〕枯れ果てた 野辺を嫌ってか、 亡くなられたお方は 秋をお好きに ならなかったのでしょうか |
563 答 |
昇りにし 雲居ながらも かへり見よ われ飽きはてぬ 常ならぬ世に |
〔源氏〕煙となって昇っていった 雲居からも 振り返って欲しい わたしはこの無常の世に すっかり飽きてしまいました |