源氏物語の和歌内訳一覧。
一巻10首以上の人物を並べると、物語の主要巻と中心人物となり、かつ重心は物語冒頭にある(54巻中12~13巻:須磨・明石)。
第一部・第二部は源氏の物語で、ヒロインは紫の上・明石がメイン。一巻のみ夕霧主体の巻がある。源氏没後の第三部は薫、最後は浮舟の物語。
巻名 | 歌数 |
内訳 (最初と最後の人物に色づけ) |
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第一部 |
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桐壺 | 9 | 4(桐壺帝)、2(祖母北の方=桐壺母)、1×3(桐壺更衣、靫負命婦=帝の使者、左大臣=葵と頭中将の父) |
帚木 | 14 | 3(源氏)、2×2(空蝉、見そめたりし人=夕顔:頭中将愛人・玉鬘母)、1×9(左馬頭、殿上人、頭中将、藤式部丞、女×3) |
空蝉 | 2 | 1×2(源氏、空蝉) |
夕顔 | 19 | 11(源氏)、4(夕顔)、2(空蝉)、1×2(中将の君①=女房、軒端荻=空蝉の継娘) |
若紫 | 25 | 12(源氏)、5(尼君=紫祖母)、2×2(少納言乳母、僧都=尼君兄)、1×4(聖、藤壺、下仕へ=女、紫上=藤壺姪) |
末摘花 | 14 | 9(源氏)、2(末摘花)、1×3(頭中将、侍従、命婦) |
紅葉賀 | 17 | 9(源氏)、3(源典侍)、2×2(藤壺、頭中将)、1(王命婦) |
花宴 | 8 | 4(源氏)、2(朧月夜=右大臣の娘)、1×2(藤壺、右大臣) |
葵 | 24 | 13(源氏)、4(六条御息所うち1首・葵への憑依生霊)、2×2(源典侍、大宮=葵祖母:頭中将母)、1×3(紫上、頭中将、朝顔) |
賢木 | 33 | 16(源氏)、5(藤壺)、4(六条御息所)、2(朧月夜)、1×6(斎宮、兵部卿宮:藤壺兄:紫父、王命婦:藤壺女房、紫上、朝顔、頭中将) |
花散里 | 4 | 2(源氏)、1×2(女房or中川の女、麗景殿=桐壺帝女御=花散里姉) |
須磨 | 48 | 28(源氏)、3(紫上)、2×5(花散里、朧月夜、藤壺、六条御息所、頭中将)、1×7(大宮、右近尉、王命婦、良清、民部大輔、前右近尉、五節) |
明石 | 30 | 17(源氏)、6(明石)、3(明石入道)、2(紫上)、1×2(朱雀帝、五節) |
澪標 | 17 | 9(源氏)、3(明石)、1×5(宣旨の娘=明石姫君乳母、紫上、花散里、惟光、斎宮) |
蓬生 | 6 | 3(末摘花)、2(源氏)、1(侍従) |
関屋 | 3 | 2(空蝉)、1(源氏) |
絵合 | 9 | 3(斎宮)、2(朱雀院)、1×4(紫上、源氏、大弐典侍、平内侍) |
松風 | 16 | 4×3(明石尼君、明石、源氏)、1×4(明石入道、冷泉帝、※頭中将=全集では注釈せず本巻一首のみ別人扱い、左大弁=年配の脇役) |
薄雲 | 10 | 5(源氏)、3(明石)、1×2(乳母=宣旨の娘:明石姫君乳母、紫上) |
朝顔 | 13 | 8(源氏)、3(朝顔)、1×2(源典侍、紫上) |
乙女 | 16 | 5(夕霧)、3(源氏)、1×8(朝顔、雲居雁、五節、朱雀院、蛍兵部卿、冷泉帝、斎宮、紫上) |
玉鬘十帖 | ||
玉鬘 | 14 | 4(玉鬘)、3×2(源氏、玉鬘乳母:太宰少弐妻)、1×4(大夫の監=玉鬘求婚田舎男、兵部の君:太宰少弐娘、右近:玉鬘侍女、末摘花) |
初音 | 6 | 2×2(源氏、明石)、1×2(紫上、明石姫君) |
胡蝶 | 14 | 4×2(若き人々=斎宮(秋好中宮)方女房、源氏)、2(玉鬘)、1×4(蛍兵部卿宮=源氏異母弟、紫上、斎宮、男) |
蛍 | 8 | 3(玉鬘)、2×2(蛍兵部卿宮=源氏異母弟、源氏)、1(花散里) |
常夏 | 4 | 1×4(源氏、玉鬘、近江君、中納言君=弘徽殿女御方女房) |
篝火 | 2 | 1×2(源氏、玉鬘) |
野分 | 4 | 1×4(明石、玉鬘、源氏、夕霧) |
行幸 | 9 | 4(源氏)、1×5(冷泉帝、玉鬘、大宮=頭中将母、末摘花、頭中将) |
藤袴 | 8 | 3(玉鬘)、1×5(夕霧、柏木、髭黒、蛍兵部卿宮、左兵衛督) |
真木柱 | 21 | 4×2(源氏、玉鬘)、3(鬚黒)、2×2(木工の君=女房、冷泉帝)、1×6(真木柱、鬚黒北の方、中将の御許、蛍兵部卿宮、近江君、夕霧) |
夕霧の物語 | ||
梅枝 | 11 | 3(源氏)、2×2(蛍兵部卿宮、夕霧)、1×4(朝顔、柏木、弁少将=柏木弟、雲居雁=夕霧妻) |
藤裏葉 | 20 | 7(夕霧)、4(頭中将)、2(雲居雁)、1×7(柏木、藤典侍=惟光娘=夕霧愛人、雲居雁乳母、夕霧乳母、源氏、朱雀院、冷泉帝) |
第二部女三宮降嫁 |
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若菜上 | 24 | 6(源氏)、3(紫上)、2×3(朱雀院、朧月夜、柏木)、1×9(斎宮、玉鬘、女三宮、明石尼君、明石姫君、明石、明石入道、夕霧、小侍従) |
若菜下 | 18 | 4×2(柏木、源氏)、2×3(明石尼君、紫上、女三宮)、1×4(明石姫君、中務の君=紫付女房、物怪、朧月夜) |
柏木 | 11 | 3(夕霧)、2(柏木)、1×6(女三宮、源氏、一条御息所=柏木妻の母、大臣=かつての頭中将=柏木父、弁の君=柏木弟、※簾内女房×落葉宮:柏木妻後に夕霧妻) |
横笛 | 8 | 2(夕霧)、1×6(朱雀院、女三宮、源氏、落葉宮=柏木妻、一条御息所=落葉の母、柏木) |
鈴虫 | 6 | 3(源氏)、2(女三宮)、1(冷泉院) |
夕霧 | 26 | 12(夕霧)、7(落葉宮=柏木妻)、3(雲居雁=夕霧妻)、1×3(一条=落葉母、少将君=一条姪、頭中将=柏木父、藤典侍=夕霧愛人) |
御法 | 12 | 3×2(紫上、源氏)、1×6(明石、花散里、明石姫君=紫養女、夕霧、頭中将、斎宮) |
幻 | 26 | 19(源氏)、2(中将の君②=源氏に仕える女房)、1×5(蛍兵部卿宮、明石、花散里、夕霧、導師) |
巻名 | 歌数 |
内訳 (最初と最後の人物に色づけ) |
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匂宮 | 1 | 1(薫=柏木の子=頭中将の孫) |
紅梅 | 4 | 2×2(紅梅大納言=按察使大納言=柏木弟、匂宮=匂兵部卿 =今上帝三宮) |
竹河 | 24 | 5(薫)、5(蔵人少将=夕霧子)、2×3(宰相君、内人、鬚黒長女)、1×8(藤侍従、鬚黒次女、なれき、大輔君、中君童女、中将(の御許)、中将の御許、藤典侍) |
宇治十帖 | ||
橋姫 | 13 | 3×3(八宮=源氏の異母弟、八宮長女=通称大君、薫=柏木の子)、2(柏木=頭中将の子)、1×2(八宮次女=若君=中君、冷泉院) |
椎本 | 21 | 5×3(匂宮=今上帝三宮、薫、八宮長女=通称大君)、4(八宮次女=中の君=中の宮)、2(八宮=源氏の異母弟) |
総角 | 31 | 12(薫=柏木の子)、7(匂宮=今上三宮)、5(八宮長女=通称大君)、4(八宮次女=中の君)、1×3(宰相中将、衛門督、宮大夫) |
早蕨 | 15 | 5(薫=柏木の子)、4(八宮次女=中君)、2(弁=老尼=柏木乳母子)、1×4(阿闍梨、匂宮、大輔の君=中君方女房、いま一人=女房②) |
宿木 | 24 | 10(薫=柏木の子)、5(八宮次女=中君)、2×2(匂宮、今上帝)、1×5(夕霧、六の君=夕霧娘?、弁=老尼、按察使君、按察使大納言) |
東屋 | 11 | 5(薫=柏木の子)、2(浮舟母)、1×4(八宮次女=中君、左近少将=浮舟求婚者、八宮三女=通称浮舟、弁=老尼) |
浮舟 | 22 | 13(浮舟)、6(匂宮=今上帝三宮)、3(薫=柏木の子) |
蜻蛉 | 11 | 7(薫=柏木の子)、1×4(匂宮=今上帝三宮、小宰相君=明石中宮女房、女房、弁=老尼) |
手習 | 28 | 12(浮舟)、8(中将=妹尼の娘婿)、7(妹尼=横川僧都の妹)、1(薫=頭中将の孫) |
夢浮橋 | 1 | 1(薫=柏木の子=頭中将の孫) |
桐壺から幻までの、いわゆる純粋な源氏の物語(幻より後は後日談)。
源氏の歌数が222首で突出(一人で全体1/4強、第一部第二部1/3強)、全体を総括すると彼のための歌物語である。
有意な二番手は、源氏に親しんでいる読者に意外かもしれないが夕霧。紫上でも頭中将でもない。
夕霧の母で源氏の正妻・葵の歌は1首もない(これも意図されている)が、六条御息所にとりついた歌があり、葵を意識するためにそちらに含めたが、含めないと六条御息所と斎宮母娘で9で並ぶ配分になる。
斎宮と同数の朧月夜は、伊勢69段の斎宮との夜を象徴。六条御息所は二条の后(彼女の枕詞は「まだ東宮の御息所と申しける時」)。一般の認定だと斎宮は8だが、それだと均衡が崩れる。主要人物の配分は最終的に一首単位で調節したと見るべきだろう。
これら第一部前半(玉鬘出現以前)の主要人物の構図は、全て伊勢竹取の構図、絵合の竹取伊勢の文脈で説明できる。詳しくは登場人物のモデル参照。
なお源氏の弟は、後半で蛍兵部卿の他、第三部で八の宮(浮舟達の父の役)という人物がご都合主義的に出現するが、いずれも無難な人物で、対して中将筋は悉く問題が生じる(玉鬘・近江の君・雲居の雁・柏木・薫)。
これは余談だが、百人一首は上記の構図を意識したと思われる(定家は伊勢・源氏の写本の大家)。文屋22、朝康37、業平17。夕霧は朝康。朝夕は絶対の対。女性を除く上位三人が源氏・夕霧・頭中将。夕霧は第三部・宿木に一首あるが、これを除いて37。
伊勢に忠実に見るなら、物語後半の伊勢63段初出で女側の目線の著者から、高齢の女を罵倒しつつ寝て「けぢめ見せぬ心」と非難された「在五中将」で主人公ということはありえないし、その直後、在原なりける男が宮中で女を追いかけまわし笑われ女に陳情され帝により流される描写の後、主観の昔男に戻す意味がないし支離滅裂すぎる。古今時代の人々が伊勢を丸ごと在五日記とみなし、みだりに業平認定したからおかしくなっている。登場人物の年代と全く関係ない源順の一段だけの本筋に全く不要な注記からも、明示の登場人物達を無視して伊勢の筋を自在に破壊する後撰時代の認定を絶対視してそちらに従属させるのは、ありえない勅撰ご都合主義。つまり公(的機関)の認識に沿うように記録を作出捏造することは伝統的。現代に突然始まったと見る方がおかしい。
源氏なき後の第三部は、薫1首で始まり、薫1首で終わる薫のための物語だが、どちらの歌もおぼつかない内容。つまり薫(中将筋)を徹底的に否定するための物語。その背景は上記のものである。
物語最後で最大のヒロインの通称浮舟(最後にも中将という男が言い寄ってきて拒絶)は、最後の三巻(東屋・浮舟・手習)だけで紫上を超え、女性最上位、全体でも源氏・夕霧・薫に次ぐ歌数になる。匂宮三帖、宇治十帖の大君中君の話は、薫のダメさ加減を描き出す、壮大な前座。最初が匂兵部卿・匂宮という巻でありながら薫の歌しかなく、匂宮自体はかませ役。