源氏物語・乙女(少女・おとめ)巻の和歌16首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
内訳:5(夕霧)、3(源氏)、1×8(朝顔、雲居雁、五節、朱雀院、蛍兵部卿、冷泉帝、斎宮、紫上)※最初と最後
即答 | 8首 | 40字未満 |
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応答 | 4首 | 40~100字未満 |
対応 | 0 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 4首 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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322 贈 |
かけきやは 川瀬の波も たちかへり 君が禊の 藤のやつれを |
〔源氏〕思いもかけませんでした(渋谷) 賀茂の川瀬の波が 立ち返るように御禊の日が巡ってきたのに、 斎院の御禊ならぬ(全集) 喪服(藤衣)にやつれておられ(旧大系)ることを |
323 答 |
藤衣 着しは昨日と 思ふまに 今日は禊の 瀬にかはる世を |
〔朝顔:斎院〕喪服を 着たのはつい昨日のことと 思っておりましたのにもう 今日はそれを脱ぐ禊をするとは、 何と移り変わりの早い世の中ですこと |
324 独 |
さ夜中に 友呼びわたる 雁が音に うたて吹き添ふ 荻の上風 |
〔夕霧〕真夜中に 友を呼びながら飛んでいく 雁の声にさらに 悲しく吹き加わる 荻の上を吹く風よ |
325 贈 |
くれなゐの 涙に深き 袖の色を 浅緑にや 言ひしをるべき |
〔夕霧〕真っ赤な血の 涙を流して恋い慕っているわたしを 浅緑の 袖の色だと言って けなしてよいものでしょうか |
326 答 |
いろいろに 身の憂きほどの 知らるるは いかに染めける 中の衣ぞ |
〔雲居雁〕色々と わが身の不運が 思い知らされますのは どのような因縁の二人なのでしょう |
327 独 |
霜氷 うたてむすべる 明けぐれの 空かきくらし 降る涙かな |
〔夕霧〕霜や氷が 嫌に張り詰めた 明け方の 空を真暗にして 降る涙の雨だなあ |
328 贈:独 |
天にます 豊岡姫の 宮人も わが心ざす しめを忘るな |
〔夕霧→藤典侍〕天にいらっしゃる 豊岡姫に 仕える宮人も わたしのものと思う気持ちを 忘れないでください |
329 贈 |
乙女子も 神さびぬらし 天つ袖 古き世の友 よはひ経ぬれば |
〔源氏〕少女だったあなたも 神さびたことでしょう 天の羽衣を着て舞った 昔の友も 長い年月を経たので |
330 答 |
かけて言へば 今日のこととぞ 思ほゆる 日蔭の霜の 袖にとけしも |
〔五節〕五節のことを言いますと、 昔のことが今日のことのように 思われます 日蔭のかずらを懸けて舞い、 お情けを頂戴したことが |
331 贈:独 |
日影にも しるかりけめや 少女子が 天の羽袖に かけし心は |
〔夕霧→藤典侍〕日の光に はっきりとおわかりになったでしょう あなたが 天の羽衣も翻して舞う姿に 思いをかけたわたしのことを |
332 唱 |
鴬の さへづる声は 昔にて 睦れし花の 蔭ぞ変はれる |
〔源氏〕鴬の 囀る声は 昔のままですが 馴れ親しんだあの頃とは すっかり時勢が変わってしまいました |
333 唱 |
九重を 霞隔つる すみかにも 春と告げくる 鴬の声 |
〔朱雀院:源氏の異母兄〕宮中から 遠く離れた 仙洞御所にも 春が来たと 鴬の声が聞こえてきます |
334 唱 |
いにしへを 吹き伝へたる 笛竹に さへづる鳥の 音さへ変はらぬ |
〔兵部卿:源氏の異母弟〕昔の 音色そのままの 笛の音に さらに鴬の囀る 声までもちっとも変わっていません |
335 唱 |
鴬の 昔を恋ひて さへづるは 木伝ふ花の 色やあせたる |
〔冷泉帝:源氏と藤壺の子〕鴬が 昔を慕って 木から木へと飛び移って囀っていますのは 今の木の花の 色が悪くなっているからでしょうか |
336 贈 |
心から 春まつ園は わが宿の 紅葉を風の つてにだに見よ |
〔斎宮〕お好みで 春をお待ちのお庭では、 せめてわたしの方の 紅葉を風の たよりにでも御覧あそばせ |
337 答 |
風に散る 紅葉は軽し 春の色を 岩根の松に かけてこそ見め |
〔紫上〕風に散ってしまう 紅葉は心軽いものです、 春の変わらない色を この岩にどっしりと根をはった松の 常磐の緑を御覧になってほしいものです |