源氏物語1帖 桐壺 3-8c 里の殿~光る君といふ名は:逐語対訳

御方々 桐壺
第3章
8c
里の殿
   
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
里の殿は、 実家のお邸は、 【里の殿】
:桐壺更衣の邸。後に「二条院」と呼ばれる。
修理職、内匠寮に宣旨下りて、 修理職や内匠寮に宣旨が下って、  
二なう改め造らせたまふ。 またとなく立派にご改造させなさる。  
     
もとの木立、
山のたたずまひ、
おもしろき所なりけるを、
もとからの木立や、
築山の様子、
趣きのある所であったが、
【おもしろき所なりけるを】
:接続助詞「を」順接の意。--であったのをさらに、の文脈。
池の心広くしなして、 池をことさら広く造って、  
めでたく造りののしる。 大騷ぎして立派に造営する。  
     
「かかる所に思ふやうならむ人を据ゑて住まばや」 「このような所に、 理想とするような女性を迎えて一緒に暮らしたい」とばかり、 【かかる所に思ふやうならむ人を据ゑて住まばや】
:源氏の心。
「思うやうならむ人を据えて住まばや」という願望は、当時の政略的な婿取り結婚が一般的な世の中で清新でロマンチックな願望である。
とのみ嘆かしう思しわたる。 胸を痛めてお思い続けていらっしゃる。 【のみ嘆かしう思しわたる】
:既に正妻がありながらそれとの夫婦仲がうまくゆかず、さらに理想的な女性を求めて彷徨してゆくこの物語の主人公像が語られている。文末は現在形で結ばれる。以上、語り手が語られてきた物語世界に対して恣意を交えずに客観的にたんたんと語ったという印象を残す。
     
「光る君
といふ名は、
高麗人の
めで
きこえて
つけ
たてまつり
ける」
とぞ、
言ひ伝へ
たると
なむ。
「光る君
という名前は、
高麗人が
お褒め
申して
お付け
したもの
だ」
と、
言い伝え
ているとの
ことである。
【光る君といふ名は高麗人のめできこえてつけたてまつりけるとぞ言ひ伝へたるとなむ】
:『万水一露』所引「宗碩説」は「光る君」以下を「注の詞也」と指摘し、また『岷江入楚』は「高麗人の」以下をいわゆる草子地と認め、『一葉抄』は「言ひ伝へたる」以下を、さらに『細流抄』は「となむ」だけを、いわゆる草子地と認めている。物語の主人公の名前の由来について、語り手は「高麗人のめできこえてつけたてまつりける」という別の伝承を「とぞ言い伝えたる」と紹介して、「となむ」と結ぶ。下に「ある」または「聞く」などの語が省略された形。この物語の筆記編集者である私(作者)は、そのように言い伝えていると聞くという体裁である。
御方々 桐壺
第3章
8c
里の殿