源氏物語1帖 桐壺 3-6e 御前より内侍:逐語対訳

引入の大臣 桐壺
第3章
6e
御前より
左馬寮の御馬
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
御前より、
内侍、 宣旨うけたまはり伝へて、
御前から
掌侍が宣旨を承り伝えて、
【内侍】
:掌侍(内侍司の三等官)をいう。
大臣参りたまふべき召しあれば、 大臣に御前に参られるようにとのお召しがあるので、  
参りたまふ。 参上なさる。  
     
御禄の物、 御禄の品物を、  
主上の命婦取りて賜ふ。 主上づきの命婦が取りついで賜わる。  
     
白き大袿に御衣一領、 白い大袿に御衣装一領、  
例のことなり。 例のとおりである。  
     
御盃のついでに、 お盃を賜る折に、 【御盃のついでに】
:帝が左大臣に盃を廻す折に、和歌を一首詠んで廻す。
     
〔桐壺帝〕
「いときなき 初元結ひに 長き世を
契る心は 結びこめつや」
〔桐壺帝〕
「幼子の元服の折、
末永い仲を そなたの姫との間に結ぶ約束はなさったか」
【いときなき初元結ひに長き世を契る心は結びこめつや】
:帝から大臣への贈歌。
「初元結ひ」は元服のこと。
「初元結ひ」の縁語「結ぶ」に「髻を結ぶ」意と「契りを結ぶ」意とを掛ける。結婚の約束をなさったか、という問い掛け。
     
御心ばへありて、 お心づかいを示されて、  
おどろかさせたまふ。 はっとさせなさる。 【おどろかさせたまふ】
:大臣をはっとさせなさる、気づかせなさるということだが、つまり、念を押しなさるという意である。
     
〔左大臣〕
「結びつる心も深き 元結ひに  濃き紫の 色し褪せずは」
〔左大臣〕
「元服の折、 約束した心も深いものとなりましょう その濃い紫の色さえ変わらなければ」
【結びつる心も深き元結ひに濃き紫の色し褪せずは】
:「ずは」連語、順接の仮定条件を表す。もしも、--ならば、の意。大臣の帝の歌に対する返歌。
「濃き紫」に元結の紐の「紫」色と源氏の深い愛情の意をこめる。大臣は帝の「結びこめつや」という問い掛けに対して、第一句冒頭に「結びつる」と答えている。
「色し褪せずは」(愛情が薄れなければ)は、そのようであってほしいと言葉に表した念願、言霊信仰とみてよいだろう。しかしまた、紫の色は褪色しやすい色、そのような親心の懸念は、物語の中で不吉な予言となってしまっている。
     
と奏して、 と奏上して、  
長橋より下りて舞踏したまふ。 長橋から下りて拝舞なさる。 【長橋】
:明融臨模本「か」に濁点符号あり。長橋、紫宸殿と清涼殿をつなぐ渡殿。
引入の大臣 桐壺
第3章
6e
御前より
左馬寮の御馬