源氏物語1帖 桐壺 3-6d 引入の大臣の皇女腹に:逐語対訳

かうぶりし 桐壺
第3章
6d
引入の大臣
御前より
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
引入の大臣の 加冠役の大臣が 【引入の大臣の】
:以下「御心なりけり」まで、地の文からやがて語り手が大臣の躊躇していた心境の理由説明する文に変わっている。物語の時間もここから「さ思したり」まで、過去に遡って語られる。
皇女腹にただ一人かしづきたまふ御女、 皇女でいらっしゃる方との間に儲けた一人娘で大切に育てていらっしゃる姫君を、 【皇女腹にただ一人かしづきたふ御女】
:大臣の北の方である皇女がお生みになった大切な一人娘。『源氏物語』では臣下に降嫁した例は、後に准太上天皇光源氏に朱雀院の皇女三の宮や太政大臣の嫡男柏木衛門督にその姉の女二の宮がいる。
春宮よりも御けしきあるを、 東宮からも御所望があったのを、 【春宮よりも御けしきあるを】
:東宮からの入内の要請をさす。
思しわづらふことありける、 ご躊躇なさることがあったのは、 【思しわづらふことありける】
:明融臨模本「おほしわつらふ事ありけるは」の「は」は後人の補入。大島本も「覚しわつらふ事ありける」とある。
この君に奉らむの御心なりけり。 この君に差し上げようとのお考えからなのであった。  
     
内裏にも、
御けしき賜はらせたまへりければ、
帝からの
御内意を頂戴させていただいたところ、
【御けしき賜はらせたまへりければ】
:「御けしき」は帝の御内意、「賜ら」(「与える」の尊敬語、また「もらう」の謙譲語、為手受手の立場によって変わる)、「せ」(尊敬の助動詞)「たまへ」(尊敬の補助動詞)は最高敬語で帝の行為に対して使われた表現であるが、ここは受手側からの申し出であるので、大臣の最高にへりくだった表現、「帝の御内意を頂戴させていただく」というニュアンス。
「帝からも御内諾を左大臣にいただかせてお置きになったことなので」(今泉忠義訳)という、帝を主導者にした解釈もあるが、下文の「さらばこの折の後見なかめるを添臥にも」という繋がりが不自然である。
「りければ」の完了の助動詞「り」完了の意、過去の助動詞「けり」で、左大臣は元服の儀式前に既に御内意を得ていた、の意味。
「さらば、
この折の後見なかめるを、
添ひ臥しにも」
「それでは、
元服の後の後見する人がいないようなので、
その添い臥しにでも」
【さらばこの折の後見なかめるを添ひ臥しにも】
:帝の引入の大臣に対する詞。
「さらば」は大臣の源氏を婿にとの希望をさす。
「添ひ臥にも」の下に「せよ」などの語句が省略されたかたち。
ともよほさせたまひければ、 とお促しあそばされたので、 【もよほさせたまひければ】
:帝は、源氏と加冠役の大臣家の娘との結婚を表向きには「お促しあそばしたので」というかたちをとる。
さ思したり。 そのようにお考えになっていた。  
     
さぶらひにまかでたまひて、 ご休息所に退出なさって、  
人びと大御酒など参るほど、 参会者たちが御酒などをお召し上がりになる時に、 【大御酒など参る】
:「参る」は「呑む」の尊敬語。
親王たちの御座の末に源氏着きたまへり。 親王方のお席の末席に源氏はお座りになった。  
     
大臣気色ばみきこえたまふことあれど、 大臣がそれとなく仄めかし申し上げなさることがあるが、 【大臣気色ばみきこえたまふこと】
:「気色ばみ」は源氏に対してわが娘婿にと結婚をほのめかしたこと。
もののつつましきほどにて、 気恥ずかしい年ごろなので、 【もののつつましきほど】
:気恥ずかしい年頃。
ともかくもあへしらひきこえたまはず。 どちらともはっきりお答え申し上げなさらない。  
かうぶりし 桐壺
第3章
6d
引入の大臣
御前より