源氏物語1帖 桐壺 3-5a 源氏の君は:逐語対訳

藤壺 桐壺
第3章
5a
源氏の君
主上も
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
源氏の君は、 源氏の君は、 【源氏の君は】
:臣下に降ったので「源氏」という呼称で呼ばれる。
御あたり去りたまはぬを、 お側をお離れにならないので、 【御あたり】
:帝のお側。
ましてしげく渡らせたまふ御方は、 誰より頻繁にお渡りあそばす御方は、 【しげく渡らせたまふ御方】
:帝が頻繁にお渡りになるお方、すなわち藤壺。
え恥ぢあへたまはず。 恥ずかしがってばかりいらっしゃれない。  
     
いづれの御方も、 どのお妃方も  
われ人に劣らむと思いたるやはある、 自分が人より劣っていると思っていらっしゃる人があろうか、 【われ人に劣らむと思いたるやはある】
:挿入句。語り手の意見感想を間に入れて、後宮の妃方がいずれも気位い高く自負していらっしゃる方々であることを強調。
とりどりにいとめでたけれど、 それぞれにとても素晴らしいが、  
うち大人びたまへるに、 お年を召しておいでになるのに対して、 【うち大人びたまへる】
:他の妃方は既に年をめしている。
いと若ううつくしげにて、 とても若くかわいらしい様子で、 【いと若ううつくしげにて】
:藤壺は若々しくかわいらしげである。
切に隠れたまへど、 頻りにお姿をお隠しなさるが、  
おのづから漏り見たてまつる。 自然と漏れ拝見する。 【おのづから漏り見たてまつる】
:主語は源氏。自然と漏れ拝見する。先にも「おのづから御心移ろひて」とあったように、ここでも「おのづから」と語られている。父桐壺帝や子の光源氏の心の動きを、人情の自然、という趣旨で語っている。
     
母御息所も、 母御息所は、  
影だにおぼえたまはぬを、 顔かたちすらご記憶でないのを、 【影だにおぼえたまはぬを】
:母桐壺更衣が亡くなったのは、源氏三歳(数え年)の夏。
「影」「だに」(副助詞)と強調されている。母の死去を理解できなかったことが、六歳の折の祖母死去の折に語られていた。
「いとよう似たまへり」と、 「大変によく似ていらっしゃる」と、 【いとよう似たまへり】
:典侍の詞には、容貌がとはないが、前後の文脈からそのように読める表現。
典侍の聞こえけるを、 典侍が申し上げたのを、  
若き御心地にいとあはれと思ひきこえたまひて、 幼心にとても慕わしいとお思い申し上げなさって、 【いとあはれ】
:源氏の心。なつかしい、慕わしい、といったニュアンスが込められる。
常に参らまほしく、 いつもお側に参りたく、 【常に参らまほしくなづさひ見たてまつらばや】
:源氏の心。地の文から心内文に自然変化した文章表現。客観描写から主観描写へと心の高まりを感じさせる。
「なづさひ見たてまつらばや」とおぼえたまふ。 親しく拝見したいと思われなさる。  
藤壺 桐壺
第3章
5a
源氏の君
主上も