源氏物語1帖 桐壺 3-4b 母后:逐語対訳

年月に添へ 桐壺
第3章
4b
母后
藤壺
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
母后、 母后は、  
「あな恐ろしや。 「まあ怖いこと。 【あな恐ろしや】
:以下「例もゆゆしう」まで、母后の詞。
春宮の女御のいとさがなくて、 東宮の母女御がたいそう意地が悪くて、 【春宮の女御】
:弘徽殿の女御は今は東宮の母なので、母后は「春宮の女御」呼称する。
「いとさがなくて」という評判を聞いている。
桐壺の更衣の、
あらはにはかなくもてなされにし例もゆゆしう」
桐壺の更衣が、
露骨に亡きものにされてしまった例も不吉で」
【桐壺の更衣】
:母后は、故桐壺更衣のことを「桐壺の更衣」と呼称している。これが当時の一般的な呼称のしかたであった。
「あらはにはかなくもてなされし例」というように聞いている。
と、 思しつつみて、 と、 おためらいなさって、  
すがすがしうも思し立たざりけるほどに、 すらすらとご決心もつかないでいるうちに、  
后も亡せたまひぬ。 母后もお亡くなりになってしまった。  
     
心細きさまにておはしますに、 心細い有様でいらっしゃるので、 【心細きさまにて】
:先帝は既に崩御されており、今母后も崩じられた。
     
〔桐壺帝〕
「ただわが女皇女たちの同じ列に思ひきこえむ」
「ただ、 わが姫皇女たちと同列にお思い申そう」 【ただわが女皇女たちとの同じ列に思ひきこえむ】
:皇女同様に後見の心配はいらない、帝がすべて世話しようの主旨。実質的な入内要請。
と、 と、  
いとねむごろに聞こえさせたまふ。 たいそう丁重に礼を尽くしてお申し上げあそばす。  
     
さぶらふ人びと、 お仕えする女房たちや、  
御後見たち、 ご後見人たち、  
御兄の兵部卿の親王など、 ご兄弟の兵部卿の親王などは、 【兵部卿の親王】
:『源氏物語』では、蛍兵部卿親王、匂兵部卿親王等、風流な親王が兵部卿になっている。
「かく心細くておはしまさむよりは、 「こうして心細くおいでになるよりは、 【かく心細くておはしまさむよりは】
:以下「御心も慰むべく」まで、四の宮の周囲の人びとの考え。地の文と融合して語られている。
「べく」の下に「奉らむ」などの語句が省略されている。
内裏住みせさせたまひて、 内裏でお暮らしあそばせば、  
御心も慰むべく」
など思しなりて、
きっとお心が慰むにちがいない」
などとお考えになって、
 
参らせたてまつりたまへり。 参内させ申し上げなさった。  
年月に添へ 桐壺
第3章
4b
母后
藤壺