源氏物語1帖 桐壺 3-3c 帝かしこき御心に:逐語対訳

博士 桐壺
第3章
3c
帝かしこき
年月に添へ
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
帝、
かしこき御心に、
倭相を仰せて、
思しよりにける筋なれば、
帝は、
優れたお考えから、
倭相をお命じになって、
既にお考えになっていたところなので、
【倭相を仰せて】
:「帝が日本流の観相をしかるべき人にお命じになって」。具体的にどのようなものか不明。
「思しよりにける筋なれば」というように、帝は高麗人の観相以前に既に日本流の観相を行って考えを決めていた。
今までこの君を親王にも 今までこの若君を親王にも 【親王】
:ここの「みこ」は親王をさす。今までの「みこ」は御子である。
なさせたまはざりけるを、 なさらなかったのだが、 【なさせたまはざりけるを】
:「を」接続助詞、順接の意。
「相人はまことにかしこかりけり」 「相人はほんとうに優れていた」 【相人はまことにかしこかりけり】
:帝の心、高麗人の相人に対する感想。
と思して、 とお思いになって、  
「無品の親王の外戚の寄せなきにては漂はさじ。 「無品の親王で外戚の後見のない状態で彷徨わすまい。 【無品の親王の外戚の寄せなきにては】
:以下「頼もしげなめること」まで帝の心。親王の位は一品から四品まであり、それに叙せられない親王を「無品親王」という。母親の身分によって決まる。
「外戚」は母方の親戚。
わが御世もいと定めなきを、 わが御代もいつまで続くか分からないものだから、 【わが御世もいと定めなきを】
:「を」接続助詞、順接、原因理由の意。わが治世もいつまで続くかわからないので。
ただ人にて朝廷の御後見をするなむ、 臣下として朝廷のご補佐役をするのが、 【ただ人にて朝廷の御後見をする】
:「臣下として朝廷の御補佐をする」。
「ただ人」は皇族以外の人、すなわち源氏に降籍することをさす。
行く先も頼もしげなめること」 将来も頼もしそうに思われることだ」  
と思し定めて、 とお決めになって、  
いよいよ道々の才を習はさせたまふ。 ますます諸道の学問を習わせなさる。  
     
際ことに賢くて、 才能は格別聡明なので、 【際ことに賢くて】
:主語は若宮。
ただ人にはいとあたらしけれど、 臣下とするにはたいそう惜しいけれど、  
親王となりたまひなば、 親王とおなりになったら、  
世の疑ひ負ひたまひぬべくものしたまへば、 世間の人から立坊の疑いを持たれるにちがいなくおいでなので、 【世の疑ひ負ひたまひぬべく】
:親王は皇位継承の資格があるので、皇太子になるのではとの疑いを抱かれる。
宿曜の賢き道の人に勘へさせたまふにも、 宿曜道の優れた人に占わせなさっても、 【宿曜の賢き道の人に勘へさせたまふにも】
:占星術の専門家に占わせる。
同じさまに申せば、 同様に申すので、 【同じさま】
:高麗人の相人、倭相の占いと同様。
源氏になしたてまつるべく思しおきてたり。 源氏にしてさし上げるのがよいとお決めになっていた。 【源氏になしたてまつるべく思しおきてたり】
:「たてまつる」(謙譲の補助動詞)は、本来語り手の若宮に対する敬意であるのが、帝が若宮を処遇することなので、帝の若宮に対する敬意の表れのようになったものであろう。源氏は臣下であり、皇族から見れば下ることである。帝がそのような地位に下すことを「--して上げる」とはおかしな言い方である。語り手の地位から見れば、源氏も皇族圏の人なので、--して上げる」といってもおかしくない。
「思しおきて」は「思し掟つ」(他タ下二、連用形)。
「帝は若宮を源氏にして差し上げるのが良いとお決めになっていた」。源氏降籍が決定した。
博士 桐壺
第3章
3c
帝かしこき
年月に添へ