源氏物語1帖 桐壺 3-2b 女皇女たち二ところ:逐語対訳

今は内裏に 桐壺
第3章
2b
女皇女たち
高麗人
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
女皇女たち二ところ、 姫皇女たちがお二方、 【女皇女たち二ところこの御腹に】
:弘徽殿女御には二人の姫宮がいる。
この御腹におはしませど、 この御方にはいらっしゃったが、  
なずらひたまふべきだにぞなかりける。 お並びになりようもないのであった。 【なずらひたまふべきだにぞなかりける】
:比肩することさえできなかった。若宮の女御子以上に愛くるしく美しいさま。
     
御方々も隠れたまはず、 他の女御がたもお隠れにならずに、 【御方がたも隠れたまはず】
:「その他の妃方も姿をお隠しにならない」。普通は、姿を隠し顔は見せないのだが、若宮が幼少なのでお側近くでお相手している。
今よりなまめかしう恥づかしげにおはすれば、 今から優美で立派でいらっしゃるので、  
いとをかしううちとけぬ遊び種に、 たいそう趣きがある一方で気のおける遊び相手だと、 【うちとけぬ遊び種】
:「ぬ」(打消の助動詞)、気づまり、気のおける遊び相手。幼少ではあるが成人同様に気のおける相手だというもの。
誰れも誰れも思ひきこえたまへり。 どなたもどなたもお思い申し上げていらっしゃった。  
     
わざとの御学問はさるものにて、 本格的なご学問はもとよりのこと、 【わざとの御学問】
:正式の御学問。漢籍をさす。
「学門 ガクモン」(色葉字類抄)、「学文 ガクモン」(文明本節用集)。
琴笛の音にも 琴や笛の才能でも 【琴笛の音】
:管弦の遊びの芸事。貴族にとって必要な嗜み。
雲居を響かし、 宮中の人びとを驚かせ、 【雲居を響かし】
:「雲居」は天空と宮中の両意をひびかす。
すべて言ひ続けば、
ことごとしう、
うたてぞなりぬべき人の御さまなりける。
すべて一つ一つ数え上げていったら、
仰々しく嫌になってしまうくらい、
優れた才能のお方なのであった。
【すべて言ひ続けばことごとしううたてぞなりぬべき人の御さまなりける】
:『首書源氏物語』は「すべて」以下を「地也」と草子地であることを指摘。『紹巴抄』は「人の御さま」以下を「双地と見るべし」と指摘する。
「すべて」と総括し、「言い続け」ると、「ことごとし」く「うたて」き感じがする、というのは、側で見ていた語り手の口吻がそのまま語られているのであるが、それは若宮があまりにも優れすぎていることとともに、そのような人もこの世にいたのだと、人物の現実性、存在感を確かなものとする。
今は内裏に 桐壺
第3章
2b
女皇女たち
高麗人