源氏物語1帖 桐壺 2-3h ものなども聞こし召さず:逐語対訳

月も入りぬ 桐壺
第2章
3h
ものなども
月日経て
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
ものなども聞こし召さず、 お食物などもお召し上がりにならず、  
朝餉のけしきばかり触れさせたまひて、 朝餉には形だけお箸をおつけになって、 【朝餉】
:朝餉(あさがれい)の間で女房の配膳によって食べる簡単な食事。
大床子の御膳などは、 大床子の御膳などは、 【大床子の御膳】
:昼の御座で殿上人の配膳によって食べる正式な食事。
いと遥かに思し召したれば、 まったくお心に入らぬかのように手をおつけあそばさないので、  
陪膳にさぶらふ限りは、 お給仕の人たちは皆、  
心苦しき御気色を見たてまつり嘆く。 おいたわしい御様子を拝して嘆く。  
     
すべて、 総じて、  
近うさぶらふ限りは、 お側近くお仕えする人たちは、  
男女、 男も女も、  
「いとわりなきわざかな」と言ひ合はせつつ嘆く。 「たいそう困ったことですね」とお互いに言い合っては溜息をつく。 【いとわりなきわざかな】
:帝の身辺にお仕えする男女の詞。
     
「さるべき契りこそはおはしましけめ。 「こうなるはずの前世からの宿縁がおありあそばしたのでしょう。 【さるべき契りこそ】
:以下「いとたいだいしきわざなり」まで帝の身辺にお仕えする男女の詞。複数の人びとの詞であるが、対話というより噂の引用であるから、全体を一つの詞としておく。
     
そこらの人の誹り、 恨みをも憚らせたまはず、 大勢の人びとの非難や嫉妬をもお憚りあそばさず、  
この御ことに触れたることをば、 あの方の事に関しては、  
道理をも失はせたまひ、 御分別をお失いあそばされ、  
今はた、 今は今で、  
かく世の中のことをも、 このように政治をお執りになることも、  
思ほし捨てたるやうになりゆくは、 お捨てになったようになって行くのは、  
いとたいだいしきわざなり」と、 たいへんに困ったことである」と、  
人の朝廷の例まで引き出で、 唐土の朝廷の例まで引き合いに出して、 【人の朝廷の例まで引き出で】
:先に「楊貴妃の例も引き出でつべうなりゆく」と、そこでは「つべくなりゆく」(--しそうになってゆく)という未来形で、地の文で語られていたが、ここでは物語中の人びとが、はっきり異国の朝廷の例、すなわち玄宗皇帝が楊貴妃に溺れて政治を顧みなくなったことを口に出して噂しているということで、それが現実のものとなったことをいう。
ささめき嘆きけり。 ひそひそと嘆息するのであった。 【ささめき嘆きけり】
:以上で、更衣の亡くなった年の秋の野分ころのある一夜を中心とした帝の日常生活を語った野分の章段が終わる。
月も入りぬ 桐壺
第2章
3h
ものなども
月日経て