源氏物語1帖 桐壺 2-3f 風の音、虫の音につけて:逐語対訳

楊貴妃の 桐壺
第2章
3f
風の音
月も入りぬ
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
〈適宜改め〉
注釈
【渋谷栄一】
〈適宜独自改め〉
風の音、
虫の音
につけて、
風の音や、
虫の音を
聞くにつけて、
【風の音虫の音につけて】
:物語は再び現在にもどる。
もののみ
悲しう
思さるるに、
そのことばかり
×何とはなく一途に
悲しく
思われなさるが、
 
     
弘徽殿
には、
弘徽殿女御
におかれては、
 
久しく
上の御局にも
参う上り
たまはず、
久しく
上の御局にも
お上がりに
ならず、
【上の御局】
:清涼殿の夜の御殿のすぐ北隣にある弘徽殿の上局の間。
月の
おもしろきに、
月が
白く〉美しいので、
〈学説はこう解さないが、古文の「月のおもしろ」は全て①面白=月面が白いほぼ満月で、②おもむきある様子と解す。独自。古文を現代文的に一義的なものと思って見ない。言葉に幅があるから学説により議論されている〉
夜更くる
まで
遊びをぞ
したまふ
なる。
夜が更ける
まで
管弦の遊びを
なさっている
ようである。
【したまふなる】
:「なる」は伝聞推定の助動詞。帝の耳に入ってくるのである。
     
いと
すさまじう、
実に
興ざめで、
 
ものし
と聞こし
召す。
不愉快だ、
とお聞き
あそばす。
 
     
このごろの
御気色を
見たてまつる
上人、
女房などは、
最近の
御様子を
拝する
殿上人や
女房などは、
 
かたはら
いたし

と聞きけり。
いたたまれない
×はらはらする思い
で聞いていた。
 
     
いと
おし立ち
かどかどしき
ところ
ものしたまふ
御方にて、
たいへんに
気が強くて
とげとげしい
性質を
お持ちの
方なので、
【いとおし立ち】
:以下「なるべし」まで、『首書源氏物語』は「地」と草子地であることを指摘。『岷江入楚』は「ことにもあらず」以下を「草子地なり」と指摘する。弘徽殿女御の強い性格を語る。
ことにも
あらず
思し消ちて
何とも
お思いなさらず
無視して
【ことにもあらず思し消ちて】
:主語は弘徽殿女御。桐壺更衣の死や帝の悲嘆を。問題にもせず無視する、意。
もてなし
たまふ
なるべし。
振る舞って
いらっしゃる
のであろう。
【もてなしたまふなるべし】
:「なる」(断定の助動詞)「べし」(推量の助動詞)の主体者は語り手である。
楊貴妃の 桐壺
第2章
3f
風の音
月も入りぬ