原文 定家本 明融臨模本 |
現代語訳 (渋谷栄一) 各自要検討 |
注釈 【渋谷栄一】 〈独自修正〉 |
---|---|---|
かの贈り物 御覧ぜさす。 |
あの贈物を 帝のお目に入れる。 |
【かの贈り物御覧ぜさす】 :命婦が帝のお目にかける。 「さす」は使役の助動詞。主上の女房をして。 「をかしき御贈り物」をさす。 |
「亡き人の 住処 尋ね出で たりけむ しるしの釵 (奥入07) ならまし かば」 |
「亡くなった人の 住処を 探し当て たという 証拠の釵 であった ならば」 |
【亡き人の住処尋ね出でたりけむしるしの釵ならましかば】 :『白氏文集』「長恨歌」の方術士が楊貴妃の霊魂のありかを探し当てて、その証拠に金釵鈿合を持って帰ったという故事をふまえる。 「ましか」反実仮想の助動詞。 |
と思ほすも いと かひなし。 |
とお思いあそばしても、 まったく 甲斐がない。 |
【いとかひなし】 :副詞「いと」は下に打消しの語を伴って「全然--ない」の意を表す。 |
〔桐壺帝〕 「尋ねゆく 幻もがな つてにても 魂のありかを そこと知るべく」 |
〔桐壺帝〕 「〈尋ね行く 夢幻でもよいのだがな〉 ×亡き更衣を探し行ける幻術士がいてくれればよいのだがな、 〈夢の世界つてにでも〉 ×人づてにでも 魂のありかを どこそこと知ることができるように」 |
【尋ねゆく幻もがなつてにても魂のありかをそこと知るべく】 :帝の独詠歌。 「幻」は幻術士、『長恨歌』の原文には「方士」とある。 〈このように「幻」一字で幻術士とみなすのが支配的通説だが、字義上無理かつ長恨歌に「幻」の字はなく、霊的理解に欠ける即物的学説による字義も文脈も無視した暗記主義的代入で不適当。前の内容も長恨歌そのままではない。幻は古来夢(ビジョン)の世界。一対で夢幻という。夢で霊的啓示を受け夢見る意識で霊的世界とつながる。日本古文学界は基本文献学(解釈すら文献学)かつ社会全体で霊的理解が即物目線で安易。それでこういう解釈も通用してしまう〉 終助詞「もがな」願望の意を表す。 「知るべく」の推量の助動詞「べく」(連用形、可能の意)は倒置法で「尋ねゆく幻もがな」に係る。 |