源氏物語1帖 桐壺 2-3c 故大納言の遺言あやまたず:逐語対訳

こまやかに 桐壺
第2章
3c
故大納言の
尋ねゆく幻
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
〔桐壺帝〕
「故大納言の遺言あやまたず、
〔桐壺帝〕
「故大納言の遺言に背かず、
【故大納言の遺言】
:以下「言ふかひなしや」まで帝の詞。入内することも「宮仕え」といった。
「よろこび」はお礼を言うこと、お礼の気持ちを表すこと、の意。
宮仕への本意深くものしたりしよろこびは、 宮仕えの宿願をよく果たしたお礼には、  
かひあるさまにとこそ その甲斐があったようにと 【かひあるさまにとこそ思ひわたりつれ】
:入内した甲斐。女御への引き立て。ずっとそう考え続けていたという。
思ひわたりつれ(訂正跡03)。 思い続けていたが、 【思ひわたりつれ】
:明融臨模本「思わたりつれ」の「わたり」は本文と一筆の補入。大島本には「思ひわたりつれ」とある。
言ふかひなしや」 詮ないことだ」  
とうちのたまはせて、 とふと仰せになって、  
いとあはれに思しやる。 たいそう気の毒にと思いを馳せられる。 【いとあはれ】
:源氏の心。なつかしい、慕わしい、といったニュアンスが込められる。
     
「かくても、 「このようにはなったが、 【かくても】
:以下「思ひ念ぜめ」まで帝の詞。命婦を前にして述べた詞であるが、北の方に対して述べたような内容になっている。したがって、この内容は再び北の方にも伝えられたものであろう。
「かくて」は更衣が亡くなったことをさす。
おのづから若宮など生ひ出でたまはば、 いずれ若宮がご成長されたならば、  
さるべきついでもありなむ。 しかるべき機会がきっとあろう。 【さるべきついで】
:更衣の出仕に報いるしかるべき機会、具体的にどのようなことか不明。もし立坊ということであれば、まず第一皇子に譲位をして、同時にその春宮にこの第二皇子の若宮を就けることになろう。右大臣の娘弘徽殿女御腹の第一皇子を飛び越えて、後見のない更衣腹の第二皇子を春宮に立たせることは不可能である。
     
命長くとこそ思ひ念ぜめ」 長生きをしてそれまでじっと辛抱するがよい」 【命長くとこそ思ひ念ぜめ】
:係助詞「こそ」「め」(推量の助動詞、已然形)係結び。強調のニュアンス。
「思ひ念ず」は心でじっとこらえる、がまんする、意。推量の助動詞「め」(已然形)は適当の意。--するのがよい、の意。
などのたまはす。 などと仰せになる。  
こまやかに 桐壺
第2章
3c
故大納言の
尋ねゆく幻