原文 定家本 明融臨模本 |
現代語訳 (渋谷栄一) 各自要検討 |
注釈 【渋谷栄一】 各自要検討 |
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命婦は、 「まだ大殿籠もらせたまはざりける」と、 あはれに見たてまつる。 |
命婦は、 「まだお寝みあそばされなかったのだわ」と、 しみじみと拝し上げる。 |
【命婦はまだ大殿籠もらせたまはざりけると】 :場面は宮中の清涼殿に変わる。 「まだ」以下「ざりける」まで、命婦の心内文、驚きの意。主語は帝。 |
御前の壺前栽のいとおもしろき盛りなるを御覧ずるやうにて、 | 御前にある壺前栽がたいそう美しい盛りに咲いているのを御覧あそばされるようにして、 |
【御前の壺前栽】 :清涼殿と後凉殿との間にある前栽。 |
忍びやかに心にくき限りの女房四五人さぶらはせたまひて、 | しめやかにおくゆかしい女房ばかり四、 五人を伺候させなさって、 | |
御物語せさせたまふなりけり。 | お話をさせておいであそばすのであった。 |
【御物語せさせたまふなりけり】 :「させ」(尊敬の助動詞)と解し「お話をしていらっしゃのであった」(古典セレクション等)、「させ」(使役の助動詞)と解し「お話しをさせていらっしゃることだ」(新大系)。帝は主に聞き役に回っている場面であろう。 |
このごろ、 明け暮れ御覧ずる長恨歌の御絵、 |
最近、 毎日御覧なさる「長恨歌」の御絵、 |
【このころ明け暮れ御覧ずる長恨歌の御絵】 :以下「枕言にせさせたまふ」までは帝の最近の日常生活を語った文章が挿入されている。 「長恨歌の御絵」は、『白氏文集』巻十二「長恨歌」の内容を屏風絵に描いたもの |
亭子院の描かせたまひて、 | それは亭子院がお描きあそばされて、 |
【亭子院の描かせたまひて】 :以下「伊勢、貫之に詠ませたまへる」まで「長恨歌の御絵」に対する説明を挿入。亭子院は宇多天皇(八八七年~八九七年まで在位)。 「せ」(尊敬の助動詞)「たまふ」(尊敬の補助動詞)、最高敬語。実際は宇多天皇が絵師に命じて描かせたものでもこのように表現する。 |
伊勢、 貫之に詠ませたまへる、 | 伊勢や貫之に和歌を詠ませなさったものだが、 |
【伊勢貫之に詠ませたまへる大和言の葉をも唐土の詩をも】 :伊勢は宇多天皇の皇后付きの女房、著名な歌人。『源氏物語』でも伊勢の名前とその引歌は女流歌人の中で最も多く出てくる。作者が意識していた歌人である。紀貫之は『古今和歌集』の撰者としても有名な歌人。貫之の歌も『源氏物語』に男性歌人中最も多く出てくる。 「大和言の葉」は和歌のこと。 「唐土の詩」は漢詩のこと。 |
大和言の葉をも、 唐土の詩をも、 | わが国の和歌や唐土の漢詩などをも、 | |
ただその筋をぞ、 | ひたすらその方面の事柄を、 |
【その筋】 :長恨歌の玄宗皇帝が愛妃楊貴妃に死別したような愛する人に先立たれた悲しい話題。 |
枕言に(奥入06)せさせたまふ。 | 日常の話題にあそばされている。 |