原文 定家本 明融臨模本 |
現代語訳 (渋谷栄一) 各自要検討 |
注釈 【渋谷栄一】 各自要検討 |
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宮は大殿籠もりにけり。 | 若宮はもうお寝みになっていた。 |
【宮は大殿籠もりにけり】 :「に」(完了の助動詞)「けり」(過去の助動詞)。訪問が長時間に及んだため、若宮はすでにお寝みになってしまわれていた、というニュアンス。 |
〔靫負命婦〕 「見たてまつりて、 |
〔靫負命婦〕 「拝見して、 |
【見たてまつりてくはしう】 :以下「夜ふけ侍ぬへし」まで命婦の詞。命婦が若宮を。 |
くはしう御ありさまも奏しはべらまほしきを、 | 詳しくご様子も奏上いたしたいのですが、 |
【御ありさま】 :明融臨模本「御」の傍注に「ミ」とある。 「みありさま」と読む。 |
待ちおはしますらむに、 | 帝がお待ちあそばされていることでしょうし、 |
【待ちおはしますらむに】 :青表紙本系の明融臨模本、池田本、横山本、大島本は「まちおはしますらんに」。肖柏本、三条西家本、書陵部本は「まちおはしますらんを」。河内本系諸本、別本諸本は「まちおはしますらんに」。 「らむ」は、推量の助動詞、視界外推量。帝が宮中で待っているだろうことを、命婦の推測するニュアンス。 「に」は接続助詞、順接の意、「お待ちあそばしていることであろうから」。しかし、順接といっても下に直接受ける語句はない。並列の構文。 |
夜更けはべりぬべし」 | 夜も更けてしまいましょう」 |
【夜更けはべりぬべし】 :「ぬ」(完了の助動詞、確述)「べし」(推量の助動詞、推量)、「夜が更けてしまいましょう」の意で、夜が更けてしまったのではない。 |
とて急ぐ。 | と言って急ぐ。 |
【とて急ぐ】 :「急ぐ」には、せく、急ぐ、意と、準備する意とがある。 「といひながら帰り支度を始める」(今泉忠義)。 |
〔祖母北の方〕 「暮れまどふ心の闇も(付箋⑤)堪えへがたき片端をだに、 |
〔祖母北の方〕 「子を思う親心の悲しみの堪えがたいその一部だけでも、 |
【暮れまどふ心の闇も】 :以下「心の闇になむ」まで、北の方の詞。冒頭の「暮れまどふ心の闇も堪へがたき片端をだにはるくばかりに」は五七五七七の和歌の形式である。会話の中に和歌がひっそりと織り込められている。『源氏釈』は「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな」(後撰集雑一、一一〇二、藤原兼輔)を指摘。 「闇」は「暮れ」の縁語。古歌の語を引用して親心のぐちを語る。その中に更衣の宮仕えの理由も語られる。 |
はるくばかりに聞こえまほしうはべるを、 | 心を晴らすくらいに申し上げとうございますので、 |
【聞こえまほしうはべるを】 :北の方が命婦に。 「まほし」(希望の助動詞)「はべる」(丁寧の補助動詞)「を」(接続助詞、順接)、「申し上げとうございますので」の意。 |
私にも心のどかにまかでたまへ。 | 個人的にでもゆっくりとお出くださいませ。 | |
年ごろ、 | 数年来、 | |
うれしく面だたしきついでにて | おめでたく晴れがましい時に |
【うれしく面だたしきついで】 :若宮誕生、若宮御袴着の祝いなどの折をさす。 |
立ち寄りたまひしものを、 | お立ち寄りくださいましたのに、 |
【立ち寄りたまひしものを】 :「し」(過去助動詞)、過去の体験が北の方にとって思い出される。 「を」は、接続助詞の逆接とも、終助詞の詠嘆とも、特定できにくい。 |
かかる御消息にて見たてまつる、 | このようなお悔やみのお使いとしてお目にかかるとは、 | |
返す返すつれなき命にもはべるかな。 | 返す返すも情けない運命でございますこと。 |