源氏物語1帖 桐壺 2-2d しばしは夢か:逐語対訳

蓬生の露 桐壺
第2章
2d
しばしは夢
光にて
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
〔靫負命婦〕
「〔桐壺帝〕
『しばしは
夢かと
のみ
たどられしを、
〔靫負命婦〕
「〔桐壺帝〕
『しばらくの間は
夢かと
ばかり
思い辿られずには
いられなかったが、
【しばしは】
:以下「とく参りたまへ」まで帝の仰せ言。命婦の詞は、「まかではべりぬる」まで。
「たどられしを」の「し」(過去の助動詞)は、帝の直接体験を表す。
やうやう
思ひ静まる
にしも、
だんだんと
心が静まる
につれて、 かえって、
 
覚むべき
方なく
堪へがたきは、
覚めるはず
もなく
堪えがたいのは、
 
いかにすべき
わざにかとも、
どのようにしたらよい
ものかとも、
 
問ひあはすべき
人だになきを、
相談できる
相手さえいないので、
【人だになきを】
:「を」は原因・理由を表す順接の接続助詞。
忍びては
参りたまひなむや。
人目につかないようにして
参内なさらぬか。
【忍びては参りたまひなむや】
:帝は母北の方にこっそりと参内なさらないかと促した。
「たまひ」は、帝の母北の方に対する敬意。
「な」(完了の助動詞、確述)、「む」(推量の助動詞、勧誘)、「や」(終助詞、呼び掛け)、親しく呼び掛けたニュアンス。
     
若宮のいとおぼつかなく、 若宮がたいそう気がかりで、  
露けき中に過ぐしたまふも、 湿っぽい所でお過ごしになっているのも、  
心苦しう思さるるを、 おいたわしくお思いなされますから、 【心苦しう思さるるを】
:帝が自分の「思う」ことを尊敬語で表現した形になっているが、伝言文であるために、命婦の帝に対する敬意がこのような形で現れ出たもの。
「を」は原因・理由を表す順接の接続助詞。
とく参りたまへ』 早く参内なさい』 【とく参りたまへ】
:帝の母北の方への命令のようだが、まだ喪中であるので、やや実現性の困難な話である。
など、 などと、 【など】
:以下「まかではべりぬる」まで、命婦はその時の帝の状況を故桐壺更衣の母北の方に語る。
はかばかしうものたまはせやらず、 はきはきとは最後まで仰せられず、  
むせかへらせたまひつつ、 涙に咽ばされながら、  
かつは人も心弱く見たてまつるらむと、 また一方では人びともお気弱なと拝されるだろうと、 【人も心弱く見たてまつるらむ】
:帝の気持ちを代弁したような文章。帝が自分を「見奉るらむ」というのもおかしな敬語表現になるので、命婦の帝に対する敬意が現れ出た表現。
思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに、 お憚りなさらないわけではない御様子がおいたわしくて、  
承り果てぬやうにてなむ、 最後まで承らないようなかっこうで、 【承り果てぬやうに】
:明融臨模本には「うけたまり(り+も<朱>)はてぬやうに」とあるが、「も」は後人の補入で、明融臨模本本来の本文ではない。大島本にも「も」は無い。『集成』『新大系』は「うけたまはり」と校訂する。『古典セレクション』は「うけたまはりも」と後人の補入を採用して校訂する。
まかではべりぬる」 退出いたして参りました」  
とて、 と言って、  
御文奉る。 お手紙を差し上げる。 【御文奉る】
:帝のお手紙を北の方に差し上げる。命婦の動作行為には敬語は使われていない。
蓬生の露 桐壺
第2章
2d
しばしは夢
光にて