原文 定家本 明融臨模本 |
現代語訳 (渋谷栄一) 各自要検討 |
注釈 【渋谷栄一】 各自要検討 |
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〔靫負命婦〕 「〔桐壺帝〕 『しばしは 夢かと のみ たどられしを、 |
〔靫負命婦〕 「〔桐壺帝〕 『しばらくの間は 夢かと ばかり 思い辿られずには いられなかったが、 |
【しばしは】 :以下「とく参りたまへ」まで帝の仰せ言。命婦の詞は、「まかではべりぬる」まで。 「たどられしを」の「し」(過去の助動詞)は、帝の直接体験を表す。 |
やうやう 思ひ静まる にしも、 |
だんだんと 心が静まる につれて、 かえって、 |
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覚むべき 方なく 堪へがたきは、 |
覚めるはず もなく 堪えがたいのは、 |
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いかにすべき わざにかとも、 |
どのようにしたらよい ものかとも、 |
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問ひあはすべき 人だになきを、 |
相談できる 相手さえいないので、 |
【人だになきを】 :「を」は原因・理由を表す順接の接続助詞。 |
忍びては 参りたまひなむや。 |
人目につかないようにして 参内なさらぬか。 |
【忍びては参りたまひなむや】 :帝は母北の方にこっそりと参内なさらないかと促した。 「たまひ」は、帝の母北の方に対する敬意。 「な」(完了の助動詞、確述)、「む」(推量の助動詞、勧誘)、「や」(終助詞、呼び掛け)、親しく呼び掛けたニュアンス。 |
若宮のいとおぼつかなく、 | 若宮がたいそう気がかりで、 | |
露けき中に過ぐしたまふも、 | 湿っぽい所でお過ごしになっているのも、 | |
心苦しう思さるるを、 | おいたわしくお思いなされますから、 |
【心苦しう思さるるを】 :帝が自分の「思う」ことを尊敬語で表現した形になっているが、伝言文であるために、命婦の帝に対する敬意がこのような形で現れ出たもの。 「を」は原因・理由を表す順接の接続助詞。 |
とく参りたまへ』 | 早く参内なさい』 |
【とく参りたまへ】 :帝の母北の方への命令のようだが、まだ喪中であるので、やや実現性の困難な話である。 |
など、 | などと、 |
【など】 :以下「まかではべりぬる」まで、命婦はその時の帝の状況を故桐壺更衣の母北の方に語る。 |
はかばかしうものたまはせやらず、 | はきはきとは最後まで仰せられず、 | |
むせかへらせたまひつつ、 | 涙に咽ばされながら、 | |
かつは人も心弱く見たてまつるらむと、 | また一方では人びともお気弱なと拝されるだろうと、 |
【人も心弱く見たてまつるらむ】 :帝の気持ちを代弁したような文章。帝が自分を「見奉るらむ」というのもおかしな敬語表現になるので、命婦の帝に対する敬意が現れ出た表現。 |
思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに、 | お憚りなさらないわけではない御様子がおいたわしくて、 | |
承り果てぬやうにてなむ、 | 最後まで承らないようなかっこうで、 |
【承り果てぬやうに】 :明融臨模本には「うけたまり(り+も<朱>)はてぬやうに」とあるが、「も」は後人の補入で、明融臨模本本来の本文ではない。大島本にも「も」は無い。『集成』『新大系』は「うけたまはり」と校訂する。『古典セレクション』は「うけたまはりも」と後人の補入を採用して校訂する。 |
まかではべりぬる」 | 退出いたして参りました」 | |
とて、 | と言って、 | |
御文奉る。 | お手紙を差し上げる。 |
【御文奉る】 :帝のお手紙を北の方に差し上げる。命婦の動作行為には敬語は使われていない。 |