源氏物語1帖 桐壺 1-4e 御子はかくても:逐語対訳

御胸つと 桐壺
第1章
4e
御子はかく
愛宕
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
御子は、
かくてもいと御覧ぜまほしけれど、
御子は、
それでもとても御覧になっていたいが、
【かくても】
:「かくても」「かかるほど」は御子の母桐壺更衣の死とその服喪期間中をさす。
かかるほどにさぶらひたまふ、 このような折に宮中に伺候しておられるのは、  
例なきことなれば、 先例のないことなので、 【例なきことなれば】
:延喜七年以後、七歳以下の子供は親の喪に服すに及ばないということになった。したがって、この物語は延喜七年以前を時代設定していることになる。
まかでたまひなむとす。 退出なさろうとする。 【まかでたまひなむとす】
:主語は御子。使役の助動詞「させ」はない。視点を帝から御子に移して叙述する。
     
何事かあらむとも思したらず、 何事があったのだろうかともお分かりにならず、  
さぶらふ人びとの泣きまどひ、 お仕えする人々が泣き惑い、  
主上も御涙のひまなく流れおはしますを、 父主上もお涙が絶えずおこぼれあそばしているのを、 【主上も御涙のひまなく流れおはしますをあやしと見たてまつるを】
:「見たてまつる」という御子の視点と語り手の地の文とが融合した叙述で語られる。この前後の「流れおはしますを」や「わざなるを」とともに「を」は目的格を表す格助詞。これら三つの文章が語り手の評言「ましてあはれに言ふかひなし」に収束される。
あやしと見たてまつりたまへるを、 変だなと拝し上げなさっているのを、  
よろしきことにだに、 普通の場合でさえ、 【よろしきことにだに】
:「普通の親子の死別の場合でさえ」の意。以下に「まして」と呼応する。三歳の幼児ゆえ、母親の死去した意味を理解せず、いっそう悲しく何とも言いようがない、という、語り手の感情移入の込められた叙述。
かかる別れの悲しからぬはなきわざなるを、 このような別れの悲しくないことはない次第なのを、  
ましてあはれに言ふかひなし。 いっそうに悲しく何とも言いようがない。 【ましてあはれに言ふかひなし】
:「まして」は母を亡くした悲しみがわかれば、それなりに悲しいと言うこともできように、その悲しみさえわからないがゆえに、いっそう痛々しくも気の毒で、何とも言いようがない、という意。
御胸つと 桐壺
第1章
4e
御子はかく
愛宕