源氏物語1帖 桐壺 1-2c 坊にもようせず:逐語対訳

初めより 桐壺
第1章
2c
坊にもようせず
御局は桐壺
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
〈適宜改め〉
注釈
【渋谷栄一】
〈適宜独自に改め〉
この御子
生まれ
たまひて
後は、
この御子が
お生まれに
なって
後は、
 
いと
心ことに
思ほし
おきて
たれば、
たいそう
格別に
お考え
おきあそばされるように
なっていたので、
 
にも
ようせずは、
〈一の皇子の
わが坊の時にも
そんなことは
ようせんのに
それは
〈坊:学説は東宮=皇太子の地位と解すが、そう見ると続く解釈が文言から離れることになるので、坊は色々幼い男子、ここでは息子の口語調の愛称と解す。独自。辞書でそう定義されないが、それは学説が以下のように口語古語を全く解せず、試験的発想で特殊と一般の重要性を反転させて考え、暗記主義的に文脈無視で特殊用法を代入したことによる。坊と御子(他人の子)の対比から、自分の息子用法をここに認めないとおかしい。その方が全て自然に通るのだから。
ようせず:現代と同じ口語の関西弁。独自。以下の渋谷訳が珍しく訳出を無視するように、学説は古語を文語と定義して口語的用法に全く理解が及んでない(物語最後の「ほんに」も)。口語には情感が出るし幼い息子を丁寧に言う必要もない。物語は論文ではないから語調が一致してないとおかしいこともない〉
【坊にもようせずはこの御子の居たまふべきなめり】
:弘徽殿女御の心中。
この御子の
居たまふ
べき
なめり」と、
きっと
この御子が
おられる
からなようだと〉
「べき」(推量の助動詞、推量)、
「な(る)」(断定の助動詞)、「めり」(推量の助動詞、視界内推量)、
見ている目の前でそれが実現しそうな推量のニュアンス。
  〈以下渋谷訳〉
「東宮にも、
ひょっとすると、
この御子がおなりになるかもしれない」と
〈左の訳は、坊=東宮という見立てに沿うよう、沿わない語意を無視したり不自然にひねった訳で不適当〉
一の皇子の
女御は
思し疑へり。
第一皇子の
母女御は
お疑いになっていた。
 
     
人より先に
参りたまひて、
誰よりも先に
御入内なされて、
 
やむごとなき
御思ひ
なべてならず、
大切に
お考えあそばされることは
一通りでなく、
【やむごとなき御思ひ】
:帝の弘徽殿女御に対する待遇。
皇女たち
なども
おはしませば、
皇女たち
なども
生まれていらっしゃるので、
 
この御方の
御諌めを
のみぞ、
この御方の
御諌め
だけは、
 
なほ
わづらはしう
心苦しう
思ひきこえ
させたまひ
ける。
さすがにやはり
うるさいことだが
無視できないことだと、
お思い申し上げ
あそばされる
のであった。
【思ひきこえさせたまひける】
:過去の助動詞「けり」を使って、弘徽殿女御と帝との話題を切り上げる。
初めより 桐壺
第1章
2c
坊にもようせず
御局は桐壺