源氏物語1帖 桐壺 1-2a 先の世にも御契りや:逐語対訳

父の大納言 桐壺
第1章
2a
先の世
初めより
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
先の世にも
御契りや
深かり
けむ、
前世でも
御宿縁が
深かった
のであろうか、
【先の世にも御契りや深かりけむ】
:「や」(係助詞、疑問)、「けむ」(過去推量の助動詞)、疑問の主体者は語り手。語り手の物語登場人物たちへの推測が挿入されている。
世になく
清らなる
玉の男御子
さへ
生まれ
たまひぬ。
この世にまたとなく
美しい
玉のような男の御子
までが
お生まれ
になった。
【玉の男御子さへ生まれたまひぬ】
:「さへ」(副助詞)、語り手の驚嘆が言い込められた表現。
「玉」は当時の最高の美的形容。また「魂」とも通じて呪術的な霊力をもった意味もこめられている。
     
いつしかと
心もとながら
せたまひて、
早く早くと
じれったく
おぼし召されて、
【いつしかと心もとながらせたまひて】
:主語は帝。
「いつしか」(連語、代名詞「いつ」+副助詞「し」強調の意+係助詞「か」疑問の意)は、これから起こることを待ち望む気持ち、を表す。
「せたまひて」は帝に対して用いられた最高敬語。
急ぎ
参らせて
御覧ずるに、
急いで
参内させて
御覧あそばすと、
 
めづらかなる
稚児の
御容貌なり。
たぐい稀な
嬰児の
お顔だちである。
【めづらかなる稚児の御容貌なり】
:「めづらかなる御容貌の稚児なり」の語順を変えて、「御容貌」を強調した表現。
     
一の皇子は、
右大臣の
女御の
御腹にて、
第一皇子は、
右大臣の
娘の女御が
お生みになった方なので、
【一の皇子は右大臣の女御の御腹にて】
:第一親王は、右大臣の娘の弘徽殿女御がお産みになった、の意。この物語の主人公の兄。三歳年長(若菜下)。
寄せ
重く、
後見が
しっかりしていて、
【寄せ重く】
:「寄せ」は心を寄せること、望みを託すこと。後見、支持の意。
「重し」は行き届いて十分であるさま。右大臣の娘ということで後見がしっかりしていて、それゆえ世間の信望も厚い、という状況。
疑ひなき
儲の君と、
正真正銘の
皇太子になられる君だと、
【疑ひなき儲の君と】
:この時点では、まだ皇太子は決定していない。
「正真正銘の皇太子として」の意。帝も即位してまだ歳月の浅いことが想像される。
世に
もてかしづき
きこゆれど、
世間でも
大切にお扱い
申し上げるが、
 
     
この
御にほひには
並びたまふ
べくも
あらざりければ、
この御子の
輝く美しさには
お並びに
なりようも
なかったので、
 
おほかたの
やむごとなき
御思ひにて、
一通りの
大切な
お気持ちであって、
【おほかたのやむごとなき御思ひにて】
:主語は帝。第一皇子に対する思い。
この君をば、 この若君の方を、  
私物に
思ほし
かしづき
たまふこと
限りなし。
自分の
思いのままに
おかわいがり
あそばされることは
この上ない。
 
父の大納言 桐壺
第1章
2a
先の世
初めより