源氏物語1帖 桐壺 1-1d 父の大納言は亡くなりて:逐語対訳

上達部上人 桐壺
第1章
1d
父の大納言
先の世
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
父の大納言は
亡くなりて、
母北の方なむ
いにしへの人の
よしあるにて、
父親の大納言は
亡くなって、
母親の北の方が
古い家柄の人の
教養ある人なので、
【父の大納言は亡くなりて母北の方なむいにしへの人のよしあるにて】
:桐壺更衣の家系は、父親が大納言。大臣に次ぐ、太政官の次官。正三位相当。しかし既に没している。母親は、由緒ある旧家の出で、教養のある人。兄弟について語られていないのは、はかばかしい人がいなかったことによる。
「にしへの人のよしあるにて」は「にしへの人のよしある(人)にて」の文脈で「にしへの人」と「よしある(人)」は同格の構文。
「にて」連語(断定の助動詞「なり」の連用形「に」+接続助詞「て」)なので、の意。『新大系』は「何氏か不明。大納言で亡くなったことは没落を暗示するか。のちに出る紫上の故母の父も亡き大納言である点が類型的である」と注す。
     
親うち具し、 両親とも揃っていて、  
さしあたりて
世のおぼえ
はなやかなる
御方がたにも
いたう
劣らず、
今現在の
世間の評判が
勢い盛んな
方々にも
たいして
ひけをとらず、
【いたう劣らず】
:「いたく」副詞。下に打消、または禁止の語を伴って、それほど、たいして、の意を表す。
「いたく」は平安時代から鎌倉時代にかけての和文に用いられた(小学館古語大辞典)。
なにごとの
儀式をも
もてなし
たまひけれど、
どのような事柄の
儀式にも
対処
なさっていたが、
 
     
とりたてて
はかばかしき
後見し
なければ、
これといった
しっかりとした
後見人が
いないので、
【後見しなければ】
:副助詞「し」強調の意。形容詞「なけれ」已然形+接続助詞「ば」は順接の確定条件を表す。後見人がいないので。
事ある時は、 こと改まった
儀式の行われるときには、
 
なほ
拠り所なく
心細げなり。
やはり
頼りとする人がなく
心細い様子である。
 
上達部上人 桐壺
第1章
1d
父の大納言
先の世