原文 定家本 明融臨模本 |
現代語訳 (渋谷栄一) 各自要検討 |
注釈 【渋谷栄一】 各自要検討 |
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上達部、 上人なども、 |
上達部や 殿上人なども、 |
【上達部上人】 :「上達部(かんだちめ)」は大臣・大中納言・参議および三位以上の人。 「上人(うへびと)」は殿上人のことで、清涼殿の殿上の間に上がることを許された人。さらに院の御所・春宮御所に上がることを許された人をもいう。普通、上達部以外の四位・五位の者の一部、六位の蔵人をいう。 |
あいなく 目を側めつつ、 |
ひと事ながら 目を逸らしそらしして、 |
【あいなく目を側めつつ】 :「あいなく」(本来何の関係もないのに、の意)は、この物語筆記編集者の感想が交えられた表現。『異本紫明抄』は「目を側め」の表現に「京師長吏為之側目」<京師の長吏之が為に目を側む>(白氏文集巻第十二 長恨歌伝 陳鴻)を指摘。 「そばめ」は、横目で睨む意と視線を逸らす意とがある。ここでは横目でちらりと注視したり、あるいは目を逸らしたり、という両義があろう。 |
「いと まばゆき 人の御おぼえなり。 |
「とても 眩しいほどの 御寵愛である。 |
【いとまばゆき】 :以下「悪しかりけれ」まで、上達部や殿上人の噂。 【人の御おぼえなり】 :「御おぼえの人なり」と同じだが、特に「御おほえ」を強調させた表現。 |
唐土にも、 かかる事の 起こりにこそ、 世も乱れ、 悪しかりけれ」と、 |
唐国でも、 このようなことが 原因となって、 国も乱れ、 悪くなったのだ」と、 |
【唐土にもかかる事の起こりにこそ世も乱れ悪しかりけれ】 :『源氏釈』は、唐の玄宗皇帝と楊貴妃との故事を指摘。青表紙本の「あしかりけれ」は、やや不安定な感じを残す表現である。別本の御物本は「あしかりけれは」、陽明文庫本は「あしきこともいてきけれともてなやむほとに」、国冬本は「あしくはなりけれと」とある。 「出で来」または「なる」などの語があると落ち着く。『源氏釈』所引「源氏物語」本文でも「もろこしにもかゝることにこそよはみたれあしきこともいてくれ」(冷泉家本)、「もろこしにもかゝることにてこそ世はみたれあしき事はいてきけれ」(前田家本)などとある。 |
やうやう 天の下にも あぢきなう、 |
しだいに 国中でも 困ったことの、 |
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人の もてなやみぐさ になりて、 |
人びとの もてあましの種 となって、 |
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楊貴妃の例も 引き出でつべく なりゆくに、 |
楊貴妃の例までも 引き合いに出されそうに なってゆくので、 |
【楊貴妃の例】 :先に「唐土(もろこし)にも」とあったが、ここで初めて「楊貴妃」の名を明かす。 【引き出でつべく】 :「つ」(完了の助動詞、確述)+「べし」(推量の助動詞、推量)、「きっと引き合いに出されそうな」の意。予想される結果や事態が作為的・人為的に起こるニュアンス。 |
いと はしたなきこと 多かれど、 |
たいそう いたたまれないことが 数多くなっていくが、 |
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かたじけなき 御心ばへの たぐひなきを 頼みにて |
もったいない 御愛情の 類のないのを 頼みとして、 |
【かたじけなき御心ばへのたぐひなきを】 :「かたじけなき御心ばへ」と「たぐひなき(御心ばへ)を」は同格の構文。 |
まじらひ たまふ。 |
宮仕え生活を しておられる。 |
【まじらひたまふ】 :宮仕え生活。帝の妃としての朝晩のお側仕え、他の女御更衣たちや廷臣たちとの社交生活をさす。 |