源氏物語1帖 桐壺 1-1b 朝夕の宮仕につけても:逐語対訳

いづれの御時 桐壺
第1章
1b
朝夕の宮仕
上達部上人
原文
定家本
明融臨模本
現代語訳
(渋谷栄一)
各自要検討
注釈
【渋谷栄一】
各自要検討
朝夕の
宮仕へに
つけても、
朝晩の
お側仕えに
つけても、
【朝夕の宮仕へにつけても】
:「明ければ退下、暮れればまた参上とお側仕へをするにつけても」(今泉忠義訳)。帝の寝所に侍ること。
「入内」(宮中に入ること、すなわち結婚)を「宮仕へ」といった。
人の心を
のみ
動かし、
他の妃方の気持ちを
不愉快に
ばかりさせ、
 
恨みを負ふ
積もりにや
ありけむ、
嫉妬を受けることが
積もり積もった
せいであろうか、
【恨みを負ふ積もり】
:「負ふ」(連体形)+「積もり」(名詞)。
「恨みを負うことが、積もり積もった」という意。『休聞抄』は「あしかれと思はぬ山の峰にだにおふなる物を人の嘆きは」(悪いやつだと思ってもいない山の峰にさえ人の嘆き(=木)は生えると言いうのに)(詞花集雑上 三三二 和泉式部)を指摘したが、別本の陽明文庫本には「うらみ」に対して「なけき」という異文があり、それならばことばが一致する。
【積もりにやありけむ】
:「に」(断定の助動詞)、「や」(係助詞、疑問)、「けむ」(過去推量の助動詞)、「積もり積もったのであろうか」の推量する人は、語り手。前の「恨みを負う」までが、物語の伝承的事実。
「にやありけむ」は、この物語筆記編集者の物語世界に対する推量。読点で区切って文意の相違を示した。
いと
篤しく
なりゆき、
とても
病気がちに
なってゆき、
【篤しく】
:衰弱がひどいさま。明融臨模本は「異例也」という注記と「つ」の左下に後世の筆になる濁点を表す二つの丸印が付いている。『岩波古語辞典』では、「金剛般若経集験記」の平安初期訓「アツシ」の他に院政期の「三蔵法師伝点」と『名義抄』の訓点「アヅシ」を掲載し、「その頃、アヅシの形もあった」と指摘。『小学館古語大辞典』でも「当時第二音節は濁音であったようだ」と記す。『集成』『古典セレクション』では「あつしく」と清音で読むが、『新大系』では「あづしく」と濁音で読む。
もの
心細げに
里がち
なるを、
何となく
心細げに
里に下がっていることが多い
のを、
 
     
いよいよ
あかず
あはれなるものに
思ほして、
ますます
 
この上なく不憫な方と
おぼし召されて、
【いよいよあかずあはれなるものに思ほして】
:主語は帝。
人のそしりをも
え憚らせ
たまはず、
誰の非難に対しても
おさし控えあそばすことが
おできになれず、
【え憚らせたまはず】
:副詞「え」は下に打消の語を伴って、不可能の意を表す。
「せたまはず」は帝に対して用いられた最高敬語。
世のためしにも
なりぬべき
御もてなしなり。
後世の語り草にも
なってしまいそうな
お扱いぶりである。
【なりぬべき】
:「ぬ」(完了の助動詞、確述)+「べし」(推量の助動詞、推量)、「きっとなってしまいそうな」の意。予想される結果や事態が無作為的・自然的に起こるニュアンス。
いづれの御時 桐壺
第1章
1b
朝夕の宮仕
上達部上人