原文 定家本 明融臨模本 |
現代語訳 (渋谷栄一) 各自要検討 |
注釈 【渋谷栄一】 各自要検討 |
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朝夕の 宮仕へに つけても、 |
朝晩の お側仕えに つけても、 |
【朝夕の宮仕へにつけても】 :「明ければ退下、暮れればまた参上とお側仕へをするにつけても」(今泉忠義訳)。帝の寝所に侍ること。 「入内」(宮中に入ること、すなわち結婚)を「宮仕へ」といった。 |
人の心を のみ 動かし、 |
他の妃方の気持ちを 不愉快に ばかりさせ、 |
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恨みを負ふ 積もりにや ありけむ、 |
嫉妬を受けることが 積もり積もった せいであろうか、 |
【恨みを負ふ積もり】 :「負ふ」(連体形)+「積もり」(名詞)。 「恨みを負うことが、積もり積もった」という意。『休聞抄』は「あしかれと思はぬ山の峰にだにおふなる物を人の嘆きは」(悪いやつだと思ってもいない山の峰にさえ人の嘆き(=木)は生えると言いうのに)(詞花集雑上 三三二 和泉式部)を指摘したが、別本の陽明文庫本には「うらみ」に対して「なけき」という異文があり、それならばことばが一致する。 【積もりにやありけむ】 :「に」(断定の助動詞)、「や」(係助詞、疑問)、「けむ」(過去推量の助動詞)、「積もり積もったのであろうか」の推量する人は、語り手。前の「恨みを負う」までが、物語の伝承的事実。 「にやありけむ」は、この物語筆記編集者の物語世界に対する推量。読点で区切って文意の相違を示した。 |
いと 篤しく なりゆき、 |
とても 病気がちに なってゆき、 |
【篤しく】 :衰弱がひどいさま。明融臨模本は「異例也」という注記と「つ」の左下に後世の筆になる濁点を表す二つの丸印が付いている。『岩波古語辞典』では、「金剛般若経集験記」の平安初期訓「アツシ」の他に院政期の「三蔵法師伝点」と『名義抄』の訓点「アヅシ」を掲載し、「その頃、アヅシの形もあった」と指摘。『小学館古語大辞典』でも「当時第二音節は濁音であったようだ」と記す。『集成』『古典セレクション』では「あつしく」と清音で読むが、『新大系』では「あづしく」と濁音で読む。 |
もの 心細げに 里がち なるを、 |
何となく 心細げに 里に下がっていることが多い のを、 |
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いよいよ あかず あはれなるものに 思ほして、 |
ますます この上なく不憫な方と おぼし召されて、 |
【いよいよあかずあはれなるものに思ほして】 :主語は帝。 |
人のそしりをも え憚らせ たまはず、 |
誰の非難に対しても おさし控えあそばすことが おできになれず、 |
【え憚らせたまはず】 :副詞「え」は下に打消の語を伴って、不可能の意を表す。 「せたまはず」は帝に対して用いられた最高敬語。 |
世のためしにも なりぬべき 御もてなしなり。 |
後世の語り草にも なってしまいそうな お扱いぶりである。 |
【なりぬべき】 :「ぬ」(完了の助動詞、確述)+「べし」(推量の助動詞、推量)、「きっとなってしまいそうな」の意。予想される結果や事態が無作為的・自然的に起こるニュアンス。 |