枕草子 補 夏のうは着は(能因本:旧全集303段)

かしこき 枕草子
中巻中
補9
夏のうは着は
病は

(旧)大系,新大系,新編全集=三巻本:ナシ
(旧)全集=能因本:303段
三巻本になく能因本のみにある段は、著者が身内本たる能因本からより広い世間の目を意識し(最終段:人のために便なき言ひ過ぐしもしつべき所々もあれば)、なかったことにして改訂したものと解する(独自)
 


 
 夏のうは着は 薄物。
 片つ方のゆだけ着たる人こそにくけれど、あまた重ね着たれば、引かれて着にくし。
 綿など厚きは、胸などもきれて、いと見苦し。まぜて着るべき物にはあらず。
 なほ昔より、さまよくを着たるこそよけれ。
 
 左右のゆだけなるは、よし。それもなほ女房の装束にては、所せかンめり。
 男のあまた重ぬるも、かたはかま重くぞあらむかし。
 
 清らなる装束の織物、薄物など、今はみなさこそあンめれ。
 今様に、またさまよき人の給はむ、いと便なきものぞかし。