枕草子 補 よろづよりは、牛飼童べの(能因本:旧全集61段)

若き人 枕草子
上巻中
補3
よろづよりは
ちごは

(旧)大系,新大系,新編全集=三巻本:ナシ
(旧)全集=能因本:61段
三巻本になく能因本のみにある段は、著者が身内本たる能因本からより広い世間の目を意識し(最終段:人のために便なき言ひ過ぐしもしつべき所々もあれば)、なかったことにして改訂したものと解する(独自)
 


 
 よろづよりは、牛飼童べのなりあしくて持たるこそあれ。
 こと者どもは、されど、しりに立ちてこそ行け、先につとまもられ行く者、きたなげなるは心憂し。
 

 車のしりにことなる事なきをのこどもの連れだちたる、いと見苦し。
 ほそらかなるをのこ、随身(ずいじん)など見えぬべきが、黒き袴の裾濃(すそご)なる、狩衣(かりぎぬ)は何もうちなればみたる、
 走る車の方などに、のどやかにてうち添ひたるこそ、わる者とは見えね、なほ、おほかたなりあしくて、人使ふはわろかり。

 きやれなど時々うちしたれど、なればみて罪なきは、さるかたなりや。
 使人(つかひびと)などこそはありて、童べのきたなげなるは、あるまじく見ゆれ。
 

 家にゐたる人も、そこにゐたる人とて使にてもまらうどなどの行きたるにも、をかしき童のあまた見ゆるは、いとをかし。