(旧)大系:45段
新大系:42段、新編全集:43段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:52段,304段(末段)
にげなきもの 下衆の家に雪の降りたる。また、月のさし入りたるもくちをし。
月のあかきに、屋形なき車のあひたる。また、さる車にあめ牛かけたる。また、老いたる女の腹たかくてありく。
わかきをとこ持ちたるだに見ぐるしきに、こと人のもとへいきたるとてはら立つよ。
老いたるをとこの寝まどひたる。また、さやうに鬚がちなるものの椎摘みたる。
歯もなき女の梅くひて酸がりたる。
下衆の紅の袴着たる。この頃はそれのみぞある。
靱負の佐の夜行すがた。狩衣すがたも、いとあやしげなり。
人におぢらるるうへのきぬは、おどろおどろし。立ち給ふさまも、見つけてあなづらはし。
「嫌疑の者やある」ととがむ。
入りゐて、空だきものにしみたる几帳にうちかける袴など、いみじうたつきなし。
かたちよき君たちの、弾正の弼(ひち)にておはする、いと見苦し。宮の中将などの、さもくちをしかりしかな。
旧全集304段(能印本)
かたちよき君達(きんだち)の、弾正(だんじゃう)にておはする、いと見苦し。宮中将などの、くちをしかりしかな。