原文 | 現代語訳 | 解釈上の問題点 |
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「祭過ぎぬれば、 | 「葵祭りが過ぎてしまえば、 | |
後の葵不用なり」とて、 | 後の葵は不要である」といって | |
ある人の、 | ある人が、 | |
御簾なるを | 御簾にあったのを | ・御簾【みす】 |
皆取らせられ侍りしが、 | 皆お取りなってしまわれたが、 | ・はべりし:「はべり」はあるの謙譲丁寧とされるが、自然に通す解釈力が問われる概念 |
色もなく覚え侍りしを、 | それを味気もなく思われましたのを、 | |
よき人のし給ふ事なれば、 | 良い人がなされたことなので、 | |
さるべきにやと思ひしかど、 | そのままにすべきかと思われたけれど、 | |
周防内侍が、 | 周防内侍が、 | ・周防内侍【すおうのないし】:1037頃~1111以前、女房三十六歌仙 |
かくれども かひなき物は もろともに みすの葵の 枯葉なりけり |
隠しても あえない物は 一緒に 見れなかった御簾の葵の 枯葉であった |
〇みす:御簾+見ず ×かく:心に懸く?御簾に懸く? ×かれ:枯れ+離れ?離れ葉? 手あたり次第の掛詞扱いはナンセンス |
返し かひなしと 思ひもかれず 葵草 心をかけぬ 折しなければ |
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と詠めるも、 | と詠んだのも | |
母屋の御簾に葵の、 | 母屋の御簾に葵が | |
かかりたる枯葉を詠めるよし、 | かかっている枯葉を詠んだ旨、 | ・たり:完了存続 |
家の集に書けり。 | 家集に書いてあったし、 | ・家集:プライベートな歌集 |
さらに、 | ||
古き歌の詞書に、 | 古い歌の前書きに、 | |
「枯れたる葵にさして遣はしける」 | 「枯れている葵にさして遣わした」 | |
とも侍り。 | ともある。 | ・はべり:あるの謙譲丁寧だが、ここは尊重引用なので自然な語調を優先した。 |
枕草子にも、 | 枕草子にも、 | |
「来しかた恋しき物、 | 過ぎ去って恋しい物は、 | ・来し方【きしかた・こしかた】:過去 |
枯れたる葵」 | 枯れている葵 | |
と書けるこそ、 | と書いたのこそ、 | |
いみじく | 非常にしみじみ |
・いみじ:甚だしい・並々でない(口語調) △たいそう(全注釈・角川) |
なつかしう | 懐かしく |
・なつかし: △親しみを感じるように ×魅力的(角川) |
思ひ寄りたれ。 | 思い致される。 |
〇思い寄る: △思いつく(全注釈) △発見(角川) |
鴨長明が四季物語にも、 | 鴨長明の四季物語にも、 | ・四季物語:長明作か確証はないとする説、偽作とする説がある |
「玉垂に後の葵は留まりけり」 | 「玉だれに後の葵は留まっていた」 | ・玉垂【たまだれ】:すだれの美称。玉簾(たますだれ)とも。 |
とぞ書ける。 | と書いていた。 | |
己れと枯るるだにこそ | 自然と枯れるのでこそ | ●だに+こそ:せめて・でさえ・であって+こそ |
あるを、 | 葵であるのに | △枯れてしまうのでさえ惜しまれる・名残惜しい(角川・全注釈) |
名残なく、 | その名残も跡形なく |
・なごりなし:跡形もない。「名残」=枯れた葵 ※先段「花は盛りに…のみ見るものかは」文脈参照 |
いかが取り捨つべき。 | どうして取って捨てられようか。 | ・べし:ここでは可能・適当 |
御帳にかかれる | 御帳にかかっている | ・みちょう【御帳】:寝床の囲い、とばり、たれぎぬ |
薬玉も、 | くす玉も、 | ・くすだま【薬玉】:邪気よけとして吊るす装飾 |
九月九日、 | 九月九日に | |
菊に取り換へらるるといへば、 | 菊に取り換えられるというので、 | |
菖蒲は菊の折までも | あやめも菊の頃まで | |
あるべきにこそ。 | あるべきだろう。 |
△あるはずのもの+であろう(全注釈) ?そのままあってもよい+だろう(角川) |
枇杷皇太后宮 | 枇杷の皇太后宮が | ・枇杷皇太后宮:藤原妍子(ふじわら の けんし/きよこ、994年4月- 1027年10月16日) |
かくれ給ひて後、 | お亡くなりになって後、 | |
古き御帳の内に、 | 古い御帳の中に、 | |
菖蒲、薬玉などの | あやめ・くす玉などで | |
枯れたるが侍りけるを見て、 | 枯れているのが供されてたのを見て、 | 〇侍り: |
(菖蒲の草を枯れた涙におきかえて) | 上の句「菖蒲草 涙の玉に ぬきかへて」 | |
「折ならぬ根を なほぞかけつる」 | 「時節でない根を なおかけている」 |
cf:あやめ草淀野に生ふるものなれば 根ながら人は引くにやあらむ(公実) 淀野(地名)→夜殿、根→寝 ※菖蒲が夜殿にあるから根(寝る)だけなのに人を引きつけるのだろうか |
と弁の乳母の言へる返事に、 | と弁の乳母が言った返事に、 | ・弁の乳母:藤原明子。三条天皇皇女禎子内親王の乳母。歌人。 |
(魂の抜けた) | (玉ぬきし) | |
「あやめの草は ありながら」 | 「あやめの草は ありながら」 | |
(夜に殿がいてほしいものと見た) | (よどのはあれむ ものとやは見し)※枯れる前に戻ってほしい | |
とも、 | とも、 | |
江侍従が | 江侍従が | ・江侍従:赤染衛門の娘、大江匡子。歌人。 |
詠みしぞかし。 | 詠んだというのだから。 | ・かし:(念押し・言い聞かせ)…よ。…ね。 |