物に争はず、己れを枉げて人に従ひ、我が身を後にして、人を先にするにはしかず。
万の喜びにも、勝負を好む人は、勝ちて興あらんためなり。
己れが芸のまさりたる事を喜ぶ。
されば、負けて興なく覚ゆべき事、また知られたり。
我負けて人を喜ばしめんと思はば、さらに遊びの興なかるべし。
人に本意なく思はせて我が心を慰めん事、徳に背けり。
睦ましき中に戯るるも、人を計り欺きて、己れが智のまさりたる事を興とす。
これまた、礼にあらず。
されば、始め興宴より起こりて、長き恨みを結ぶ類多し。
これみな、争ひを好む失なり。
人にまさらん事を思はば、ただ学問して、その智を人にまさらんと思ふべし。
道を学ぶとならば、善にほこらず、輩に争ふべからうといふ事を知るべき故なり。
大きなる職をも辞し、利をも捨つるは、ただ、学問の力なり。