さしたることなくて人のがり行くは、よからぬことなり。
用ありて行きたりとも、そのこと果てなば、とく帰るべし。
久しくゐたる、いとむつかし。
人と向ひたれば、ことば多く、身もくたびれ、心も静かならず、よろづのこと障りて時を移す、互ひのため益なし。
いとはしげに言はむもわろし。
心づきなきことあらむをりは、なかなかそのよしをも言ひてむ。
同じ心に向かはまほしく思はむ人の、つれづれにて、「いましばし、今日は心静かに」など言はむは、この限りにはあらざるべし。
阮籍が青き眼、たれもあるべきことなり。
そのこととなき人の来りて、のどかに物語して帰りぬる、いとよし。
また、文も、「久しく聞こえさせねば」などばかり言ひおこせたる、いとうれし。