書写の上人は、法華読誦の功つもりて、六根浄にかなへる人なりけり。 旅の仮屋に立ち入られけるに、豆の殻を焚きて豆を煮ける音のつぶつぶとなるを聞き給ひければ、「うとからぬおのれらしも、恨めしく我をば煮て、辛き目を見するものかな」といひけり。 焚かるる豆殻のはらはらと鳴る音は、「我が心よりすることかは。焼かるるはいかばかり堪へがたけれども、力なきことなり。かくな恨み給ひそ」とぞ聞こえける。