静かに思へば、よろづに過ぎにし方の恋しさのみぞ、せむかたなき。
人静まりてのち、長き夜のすさびに、なにとなき具足とりしたため、残し置かじと思ふ反古など破り捨つる中に、亡き人の手習ひ、絵描きすさびたる見出でたるこそ、ただそのをりの心地こそすれ。 このごろある人の文だに、久しくなりて、いかなるをり、いつの年なりけむと思ふは、あはれなるぞかし。 手馴れし具足なども、心変はらず久しき、いと悲し。