何事も、古き世のみぞしたはしき。 今様は無下にいやしくこそなりゆくめれ。 かの木の道のたくみの造れる、うつくしき器物も、古代の姿こそをかしと見ゆれ。
文の詞などぞ、昔の反古どもはいみじき。 ただ言ふことばも口をしうこそなりもてゆくなれ。 「いにしへは、車もたげよ、火かかげよ、とこそ言ひしを、今やうの人は、もてあげよ、かきあげよ、と言ふ。主殿寮人数たて、と言ふべきを、たちあかししろくせよ、と言ひ、最勝講御聴聞所なるをば、御講の廬、とこそ言ふを、かうろ、と言ふ、くちをし」とぞ、古き人は仰せられし。