徒然草22段 何事も古き世のみぞ:原文

よろづのこと 徒然草
第一部
22段
何事も古き世
おとろへたる

 
 何事も、古き世のみぞしたはしき。
今様は無下にいやしくこそなりゆくめれ。
かの木の道のたくみの造れる、うつくしき器物も、古代の姿こそをかしと見ゆれ。
 

 文の詞などぞ、昔の反古どもはいみじき。
ただ言ふことばも口をしうこそなりもてゆくなれ。
「いにしへは、車もたげよ、火かかげよ、とこそ言ひしを、今やうの人は、もてあげよ、かきあげよ、と言ふ。主殿寮人数たて、と言ふべきを、たちあかししろくせよ、と言ひ、最勝講御聴聞所なるをば、御講の廬、とこそ言ふを、かうろ、と言ふ、くちをし」とぞ、古き人は仰せられし。