原文 | 現代語訳 | 注 |
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神無月 のころ、 栗栖野 といふ所を 過ぎて、 |
十月 のころ、 栗栖野 という所を 過ぎて、 |
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ある山里に たづね入る こと 侍りしに、 |
ある山里に 尋ね入る ことが あった時に、 |
〇侍りし=仕った(予定) △ありました(丁寧は不自然) |
はるかなる 苔の細道を 踏み分けて、 心細く 住みなしたる 庵あり。 |
はるかなる 苔の細道を 踏み分けて、 心細く 住みなしている 庵があった。 |
●苔の細道: 奥の細道の由来と解する(独自) 根拠は風流と見せかけて滑稽な所 滑稽が俳諧第一の特徴 |
木の葉に うづもるる 懸樋の しづく ならでは、 つゆ おとなふもの なし。 |
木の葉に うずもれている 架け樋の しずく 以外には、 つゆほども 音を立てるものが ない。 |
・ならでは=でなければ ●つゆ=副詞(cf.露知らず) 縁語ではなく掛詞的用法(独自) |
閼枷棚に 菊、紅葉など 折り散らしたる、 さすがに 住む人の あれば なるべし。 |
小さな棚に 菊や紅葉など 折って散らしてるのは、 さすがに 住む人が いるからに 違いない。 |
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かくても あられけるよと、 あはれに 見るほどに、 |
こんな所にも 人はいたんだなぁと、 しみじみと 見るほどに、 |
・かくてもあられけるよ |
かなたの庭に、 大きなる 柑子の木の、 枝もたわわに なりたるが、 |
遠くの庭に、 大きな蜜柑の木が、 枝の実もたわわに なっていたのだが、 |
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まはりを きびしく 囲ひたりし こそ、 少し ことさめて、 |
その周りを 厳しく 囲っていた ことが、 少し 興ざめで、 |
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この木 なからまし かば と覚えしか。 |
この木が なければよかった のに と思われたような。 |
・覚えしか |