これも今は昔、式部大輔実重は賀茂へ参る事ならびなき者なり。前生の運おろそかにして、身に過ぎたる利生にあづからず。 人の夢に、大明神、「また実重来たり、実重来たり」とて、嘆かせおはしますよし見けり。実重、御本地を見奉るべきよし祈り申すに、ある夜、下の御社に通夜したる夜、上へ参る間、なから木のほとりにて、行幸にあひ奉る。百官供奉常のごとし。 実重、片藪に隠れゐて見れば、鳳輦の中に、金泥の経一巻立たせおはしましたり。その外題に、「一称南無仏、皆已成仏道」と書かれたり。夢すなはち覚めぬとぞ。