これも今は昔、青蓮院の座主のもとへ、七宮渡らせ給ひたりければ、御つれづれ慰め参らせんとて、若き僧網、有職など、庚申して遊びけるに、上童のいと憎さげなるが、瓶子取などしありきけるを、ある僧忍びやかに、
♪19 うへわらは 大童子にも 劣りたり
と連歌にしたりけるを、人々暫し案ずるほどに、仲胤僧都、その座にありけるが、「やや、胤、早うつきたり」と言ひければ、若き僧たち、いかにと、顔をまもり合ひ侍りけるに、仲胤は、
♪19-2 祇園の御会を 待つばかりなり
とつけたりけり。
これをおのおの、「この連歌はいかにつきたるぞ」と、忍びやかに言ひ合ひけるを、仲胤聞きて、「やや、わたう、連歌だにつかぬとつきたるぞかし」といひたりければ、これを聞き伝えたる者ども、一度にはつと、とよみ笑ひけりとか。