今は昔、季直少将といふ人ありけり。病つきて後、すこしをこたりて、内に参りたりけり。公忠弁の、掃部助にて蔵人なりけるこの事なり。 「乱り心地、まだよくもをこたり侍らねども、心元なくて参り侍りつる。後は知らねども、かくまで侍れば、あさてばかりに、また参り侍らん。よきに申させ給へ」とてまかり出でぬ。 三日ばかりありて、少将のもとより、
♪14 くやしくぞ 後にあはんと 契りける 今日を限りと いはましものを
さて、その日失せにけり。あはれなる事のさまなり。