今は昔、唐に、孔子、道を行き給ふに、八つばかりなる童あひぬ。 孔子に問ひ申すやう、「日の入る所と洛陽と、いづれか遠き」と。孔子いらへ給ふやう、「日の入る所は遠し。洛陽は近し」 童の申すやう、「日の出で入る所は見ゆ。洛陽はまだ見ず。されば日の出づる所は近し。洛陽は遠しと思ふ」と申しければ、孔子、かしこき童なりと感じ給ひける。 「孔子には、かく物問ひかくる人もなきに、かく問ひけるは、ただ者にはあらぬなりけり」とぞ人いいける。