これも今は昔、放鷹楽といふ楽を、明暹已講、ただ一人習ひ伝へたりけり。 白河院野行幸、明後日といひけるに、山階寺の三面の僧坊にありけるが、「今宵は門なさしそ。尋ぬる人あらんものか」と言ひて待ちけるが、案のごとく、入り来たる人あり。 これを問ふに、「是季なり」と言ふ。 「放鷹楽習ひにか」と言ひければ、「然なり」と答ふ。すなはち坊中に入れて、件の楽を伝へけり。