これも今は昔、大二条殿、小式部内侍おぼしけるが、絶え間がちになりけるころ、例ならぬことおはしまして、久しうなりて、よろしくなり給ひて、上東門院へ参らせ給ひたるに、小式部、台盤所にゐたりけるに、出でさせ給ふとて、「死なんとせしは、など問はざりしぞ」と仰せられて過ぎ給ひける。御直衣の裾を引きとどめつつ、申しけり。
♪10 死ぬばかり 嘆きにこそは 嘆きしか 生きて問ふべき 身にしあらねば
堪へずおぼしけるにや、かき抱きて局へおはしまして、寝させ給ひにけり。