今は昔、木こりの、山守に斧を取られて、わびし、心うしと思ひて、つら杖うちつきてをりける。山守見て、「さるべきことを申せ。とらせん」と言ひければ、
♪3 あしきだに なきはわりなき 世の中に よきをとられて 我いかにせむ
と詠みたりければ、山守、返しせんと思ひて、「うう、うう」とうめきけれど、えせざりけり。 さて、斧返しとらせてければ、うれしと思ひけりとぞ。 人はただ、歌をかまへてよむべしと見えたり。