これも今は昔、高陽院造らるる間、宇治殿御騎馬にて渡らせ給ふ間、倒れさせ給ひて心地違はせ給ふ。 心誉僧正に祈られんとて召しに遣はすほどに、いまだ参らざる先に、女房の局なる女に物憑きて申していはく、「別の事にあらず。きと目見入れ奉るによりて、かくおはしますなり。僧正参られざる先に、護法先だちて参りて追ひ払ひ候へば、逃げをはりぬ」とこそ申しけれ。 すなはち、よくならせ給ひにけり。心誉僧正いみじかりけるとか。