大和物語98段:おなじおほきおとど、左大臣の御母・菅原の君かくれ

影にも人は 大和物語
第四部
98段
かたみの色
小倉山

登場人物

 
 ♪おなじおほきおとど
 ♀左大臣の御母・菅原の君
 亭子の帝
 ♀后の宮

原文

 
 
 おなじおほきおとど、
 

 左大臣の御母・菅原の君かくれ給ひにけり。
 御服はて給ひにけるころ、
 亭子の帝なむ、内に御消息聞こえ給ひて、色ゆるされ給ひける。
 
 さりければ、大臣いと清らに、蘇芳がさねなど着給ひて、
 后の宮にまゐり給うて、
 「院の御消息のいとうれしく侍りて、かく色ゆるされて侍ること」
 など聞こえ給ふ。
 

 さて、詠み給ひける。
 

♪146
  ぬぐをのみ 悲しと思ひし なき人の
  かたみの色は またもありけり

 
 とてなむ、泣き給ひける。
 

 そのほどは、中弁になむ、ものし給ひける。
 
 

影にも人は 大和物語
第四部
98段
かたみの色
小倉山