大和物語94段:故中務宮の北の方、失せ給ひて

斎宮の御占 大和物語
第四部
94段
巣守
右大臣の御息所

登場人物

 
 ♀故中務宮の北の方
 三条右大臣殿(藤原定方:百人一首25歌人)
 ♀かの北の方の御おとうと九の君
 左兵衛の督の君=侍従
 ♪♀御息所(右大臣の御息所)
 ♪宮

原文

 
 
 故中務宮の北の方、
 失せ給ひてのち、ちひさき君たちをひき具して、
 三条右大臣殿にすみ給ひけり。
 
 御忌みなどすぐしては、つひにひとりはすぐし給ふまじかりければ、
 かの北の方の御おとうと九の君を、やがてえ給はむとおぼしけるを、
 なにかは、さもと、親はらからもおぼしたりけるに、いかがありけむ、
 左兵衛の督の君、侍従にものし給ひけるころ、その御文もて来となむ、聞き給ひける。
 
 さて心づきなしとやおぼしけむ、もとの宮になむ、わたり給ひにける。
 

 その時に御息所の御もとより、
 

♪141
  なき人の 巣守にだにも なるべきを
  いまはとかへる 今日の悲しさ

 

 宮の御返し、
 

♪142
  巣守にと 思ふ心は とどむれど
  かひあるべくも なしとこそ聞け

 
 となむありける。
 
 

斎宮の御占 大和物語
第四部
94段
巣守
右大臣の御息所