大和物語113段:兵衛の尉、離れてのち

もろただ 大和物語
第四部
113段
なみの下草
七夕

登場人物

 
 ♪兵衛の尉
 ♪♪♪♀この女ども=女=おなじ人

原文

 
 
 兵衛の尉、離れてのち、
 臨時の祭りの舞人にさされていきけり。
 

 この女ども、物見にいでたり。
 
 さて、帰りてよみてやりける。
 

♪176
  むかし着て なれしをすれる 衣手を
  あなめづらしと よそに見しかな

 
 かくて兵衛の尉、山吹につけておこせたりける。
 

♪177
  もろともに 井手の里こそ 恋しけれ
  ひとりをり憂き 山吹の花

 
 となむ。返しは知らず。
 

 かくて、これは、女、通ひける時に、
 

♪178
  大空も ただならぬかな 神無月
  われのみしたに しぐると思へば

 
 これも、おなじ人、
 

♪179
  あふことの なみの下草 みがくれて
  しづ心なく 音こそ泣かるれ

 
 

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113段
なみの下草
七夕