大和物語169段:むかし、内舎人なりける人

法師の子は 大和物語
第六部
169段
井手
伊衡の宰相

登場人物

 
 内舎人
 ♀女どもわらはべ
 ♀いとをかしげなる子

原文

 
 
 むかし、内舎人なりける人、おほうわの御幣使に、大和国に下りけり。
 井手といふわたりに、清げなる人の家より、女どもわらはべいで来て、このいく人を見る。
 

 きたなげなき女、いとをかしげなる子を抱きて、門のもとに立てり。
 この児の顔のいとをかしげなりければ、目をとどめて、
 「その子、こち率て来」
 といひければ、この女寄り来たり。
 

 近くて見るに、いとをかしげなりければ、
 「ゆめ、こと男したまふな。
 われにあひたまへ。
 おほきになりたまはむほどにまゐり来む」
 といひて、
 「これをかたみにしたまへ」
 とて、帯をときてとらせけり。
 

 さて、この子のしたりける帯をときてとりて、もたりける文にひき結ひてもたせていぬ。
 この子、とし六、七ばかりありけり。
 この男、色好みなりける人なれば、いふになむありける。
 これをこの子は忘れず思ひもたりけり。
 男ははやう忘れにけり。
 

 かくて七、八年ばかりありて、また、おなじ使にさされて大和へいくとて、
 井手のわたりに宿りゐて見れば、前に井なむありける。
 それに水くむ女どもあるがいふやう、

 

(以降切断)
 
 

法師の子は 大和物語
第六部
169段
井手
伊衡の宰相